日本健康福祉政策学会【学会について】

◎理事長よりご挨拶

就任のご挨拶

理事長 塩飽邦憲

 2018年4月から2年間,引き続いて理事長を努めさせて頂きます。本学会の設立の理念である地域主権,市民・行政・専門家の協働を基礎に、学会員の成長と自己革新を実現し、健康福祉政策や活動の改善の一助となるために、様々な課題に取り込んでいきますので、ご支援、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 近年、日本では自然災害に立て続けに見舞われています。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2017年の九州北部豪雨、1991年の雲仙岳、2014年の御嶽山、つい先日の草津白根火山の噴火などです。日本の国土面積は世界の0.28%しかありませんが、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の約21%が日本で起こり、世界の活火山の7%が日本にあります。このため、日本は世界の災害死亡の0.3%、災害被害金額の12%を占めています。東海地震や南海地震の発生も時間の問題とされています。しかし、地震や火山噴火を事前に察知することは容易ではなく、予知できたとしても大規模な災害では被害防止策を実施することは困難です。このため、防災とは、災害を未然に防ぐ被害抑止のみならず、被害の拡大を防ぐ被害軽減、被災からの復旧までの復興、危機管理などを総合的に展開する必要がありますが、健康福祉部門を含む総合対策の樹立には至っていません。

 こうした防災の考え方は、疾病(生活習慣病、感染症、メンタルヘルス不調)、環境のみならず、高齢者や障がい者への健康福祉についても活用可能です。しかし、超高齢社会や社会・経済的格差の拡大などに伴う財政負担の観点のみが強調され、総合的な対策樹立は不十分と言わざるを得ません。例えば、認知症高齢者の交通事故多発から、2017年3月の道路交通法改正により、まだ運転能力を維持している高齢者でも、認知症と診断された人や臨時認知機能検査や高齢者講習を受験しない人は運転免許が取り消されることになりました。しかし、交通手段を奪われた高齢者は生活範囲が狭まり、QOLに多大な悪影響を及ぼします。このため、日本神経学会等は、運転中止後に認知症の人やその家族が社会から孤立しないための、公共交通システムの再整備や自動運転等の代替交通支援システムの開発を要望しています。社会が強制的に免許を取り上げるなら、交通手段を補償する必要があり、それができなければ人権侵害との観点が重要と考えられます。

 高齢化に伴う介護の問題が地方から大都市に移行しつつあり、医療介護費用の高騰とも相まって、急性期医療システムの見直しや地域包括ケアの強化が推進されようとしています。介護資源やソーシャルキャピタルの低い大都市では、経済・経営的な観点から、地域包括ケアを巨大な医療法人や「持ち株」医療福祉法人制度への「丸投げ」しようとの動きも見られます。人間尊厳をコアとして、地域主権と市民・行政・専門家の協働による地域包括ケアの構築を進める動きを強めることが本学会の使命と考えています。

(2018年1月27日)

Copyright©2013 日本健康福祉政策学会 このページの文章・写真などあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。