<2008年6月15日発行>
やどかり研究所主催 学習会
講演 私の生き方・くらし方探しとやどかりの里
講師の鈴木 文熹先生
やどかりの里定期総会後,恒例となっているやどかり研究所主催の学習会が開催された.今年は「私の生き方・くらし方探しとやどかりの里」と題し,南信州地域問題研究所の前所長である鈴木文熹先生を講師にお迎えした.
鈴木先生とやどかりの里との出会いは,やどかりの里の30周年に行った状態調査に始まる.現在ではやどかり研究所の顧問も務めていただき,昨年まではやどかりの里の有志で組織する自主学習班(通称「鈴木ゼミ」)において,世界経済や日本の政治・経済について学習を進める際の講師をお願いしていた.今回の学習会では,前半を「私の生き方・くらし方探しとやどかりの里」と題して,鈴木先生の80年余りのあゆみを語っていただくとともに,後半では鈴木先生が近年特に注目し,追及してきた命題である「道州制をどう捉え,どう対抗していくのか」と題して,国民に見えづらい形で着々と進んでいる,現状47ある都道府県制から,全国を9〜13ブロックに区分する道州制への組み換えについて講演いただいた.
自らの人生を振り返って,鈴木先生は「このとき,もしこの人に出会っていなかったらどうなっていただろうと思うような人にお会いしてきたと思えるほど,人との出会いに恵まれた人生であった」,「無駄な時期というのは一度もなかったと思えるようになった」と,力強く語られた.
また,道州制の問題を語る中では,「障害者自立支援法に対する抗議運動をひとつのきっかけとして,高齢者などお上に抵抗するなど考えられなかった弱者の立場の人が,後期高齢者医療に対して怒りの声を上げるような最近の流れを作ったのではないか」との見解を述べた.そして現在,国が考えている道州制のあり方は,経済活動を優先したものであり,このまま道州制が導入されれば,昨年北九州市で起きた生活保護打ち切りによる餓死事件と同様のことが更に起こるのではないかと警告を発する.参加者からは「私たちの暮らしに直結する大事なことが,国民に充分知らされぬまま進んでいることに衝撃を受けた」,「道州制という言葉を聞いたことがあるぐらいで,今日のお話をうかがうまで内容を知らなかった自分に危機感を持った」などの感想が聞かれた.
鈴木先生の学習意欲は,傘寿を過ぎても全く衰えを知らない.今年5月には『道州制が見えてきた』(本の泉社)を出版されている.是非鈴木先生の著作をご一読いただき,私たちが暮らす日本の国の姿がどのように変更させられようとしているのか,また,その中で私たちは何を考え,行動していかなくてはならないのか考える機会にしていただきたい.
(ドリームカンパニー 渡辺 里子)
<2008年3月15日発行>
第6回やどかり研究所報告・交流集会
研究報告から,実践を見直す大切な機会に
2月16日(土)〜17日(日)の2日間に渡り,第6回やどかり研究所報告交流集会が開催された.
この報告交流集会は,1年に1度,やどかり研究所会員の実践,研究報告,そして交流を目的として恒例となっている.今年は,会員でない一般参加者が多かったのが特徴で,90名程の施設職員,当事者,ご家族,研究職など,多分野の方々90名程の方にご参加いただいた.
1日目は,会員による8題の研究実践報告が行われた.続いて行われた自由討論で,各発表を受け,参加者が興味のあるテーマ.発表者のもとに集まり,活発なディスカッションが行われた.
私は,やどかり研究所の運営委員でもあり,国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所流動研究員である間宮郁子さんの「精神障害者の尊厳を保つ就労移行支援のために−通所授産施設エンジュのフィールドワークから見えてきたこと−」の自由討論に参加した.
発表者である間宮さんは,実際エンジュに5か月間通って作業をともにされながら調査に当たった.エンジュの特徴である,柔軟で流動的な作業配分・人的配置や,安心して健康的に働くことが目標であることなどを間近に見聞きし,エンジュで実際行われているさまざまな人間関係の営みが,尊厳を取り戻す信頼関係を育てており,幅広な支援の可能性を示唆するものだと報告された.
この発表内容に関心を持って集まった9名の方々は,積極的な討論を繰り広げ,感想や意見が飛び交った.この熱気が間宮さんにも響き「これからもこの研究を続けていきたい」という決意宣言で応えてくださった.
2日目は,埼玉大学の宗澤忠雄先生による特別報告「障害のある人の暮らしの中の人権を考える〜障害のある人への虐待または不適切な行為に関する実態・意識調査の報告から〜」があった.調査は,さいたま市内の障害者福祉に関係する事業者を対象に実施されたもので,調査結果の分析と,調査から見えてきたことをご報告いただいた.
「虐待の問題を『加害者−被害者』関係に捉えるのではなく,問題発生に関連する構造的な要因を含めた実態と支援者の意識や行動を明らかにすることによって,地域社会,行政等がまとまりをもって取り組むべきではなないか」と課題提起され,会場からは「日常業務の自分の対応を振りかえったとき『不適切な行為』『虐待』に当たる行為もあった……正直今はショックを受けているが,その構造をしっかり勉強し,真摯に受けとめていこうと思う」との感想も寄せられた.今後はやどかりの里だけでなく,各地域,まずはさいたま市内の障害者施設との連携を持ち,勉強を進め,取り組んでいくことが求められる.
改めて地域の実践と研究が連携し,ともに学んでいくことの大切さを実感した2日間であった.
*報告交流集会の詳細は,2008年8月発行の『響き合う街で』46号に全面特集いたします.是非ご覧ください.
(工藤 菜乃)
<12月15日発行>
やどかりサロン
私が私の人生の主人公になった
11月17日(土)に第3回研究所サロン「私が私の人生の主人公になった」が開催された.
当事者の須藤守男さん,星野文男さんを中心に辰村泰治さん,堀澄清さんの4人の方からのお話をお聞きする会であった.
今回のサロンは,障害者の権利条約についての学習会を開催したことを契機に,障害のある人を取り巻く差別や偏見について,障害当事者の人生からその実態を明らかにしようと企画したものである.星野さんは,障害者自立支援法の改善を求める署名活動に参加し,自分の地元の駅前に立つに至るまでの心の中の葛藤を通して,自らの内なる偏見について話をされた.
今回は紙面の都合もあり,須藤さんの話を中心に報告する.
須藤さんは3回目の入院が13年という長期にわたった.入退院を繰り返し,家族も退院を受け入れず,入院が続いたという.敷地内にある老人病棟では患者さんが亡くなると線香の匂いが漂ってきたそうだ.そして,「俺もこうなるのか」と男泣きに泣いた話.病院の庭の桜の花が咲き,葉が茂り,やがて葉が落ち,また花が咲く.「いったい俺は,何度目の桜が咲けば退院できるのか」と年を重ねた日々のこと.情景が思い浮かぶ話が続いた.
やどかりの里があったから退院できたと話す須藤さん.里に来るまで病気の話は恥ずかしいことと思っていたが,仲間やスタッフが受け入れてくれて話せるようになり自信がついた.そのうちに気がつけば,他の人に対しても自分が世話をするようになり,そのことでも自信がついていったという.認めたくなかった自分の姿も少しずつ受け入れられるようになったことが,話から伝わってきた.
会場とのやり取りのときに,やどかり研究所代表の藤井達也さんが「私たちは病気がなくても,自分の人生の主人公になりにくい.ましてや病気や障害を持っていては余計になりにくい.4人の方は,長い人生のなかで自分の人生の主人公になってこられた」と話された.私も思わず自らに問うた.「私は私の人生の主人公になっているだろうか」と.普段,私はそんなことなど意識せずに生活してきたように思う.一方,須藤さんたちがこんなにも「私の人生」を強烈に意識せざるを得なかったのは,それだけ病気や病気にまつわる差別偏見など,さまざまな障壁が自分らしく生きることを妨げていた事実があったからなのだと思う.私たちが生きる社会には,自分らしく生きることを妨げる障壁が,私たちが意識していないところにまだまだたくさんあるのだ.そのことを須藤さんたちは,私たちに身をもって指し示してくれているように思えた.と同時に,自分らしく生きられることの大切さを伝えてくれているのだと思う.
今回のサロンでは,本当にいろいろなことを考えさせられた.私が私の人生の主人公になっていれば,私ではない何者かになろうと焦ったり,もがいたりせずにすむし,他の人の人生に対しても,安心して自分は脇役にまわることができるのだろう.
今回,須藤さんが入院していた病院に,20年近く長期入院している3人の方が参加されていた.「早く退院して,病院の垢を落として,少しは楽をしてください」と,須藤さんがゆっくり彼らに語りかけた場面が忘れられない.「私が私の人生の主人公になった」とき,人はこんなにも温かい眼差しを他者に対して向けることができるものなのか,と静かな感動を覚えずにはいられなかった.
さて,読者の皆さんはどうだろう.あなたは,あなたの人生の主人公になっていますか.
(やどかり研究所副代表 白石 直己)
<10月15日発行>
今改めて,障害のある人の家族の支援を考える
第2回やどかり研究所サロン開催
去る9月1日(土),東京都多摩精神保健福祉センター所長の伊勢田堯先生をお招きして,第2回やどかり研究所サロンを開催した.今回のサロンは,家族の回復を支援するために必要な仕組みや支援のあり様を学習することを目的に,臨床医でもあり,家族支援の大切さを感じておられる伊勢田先生をお招きして,イギリスにおける家族支援の取り組み,今後の日本における課題について,ご自身の臨床現場での体験も交えながらお話しいただいた.
やどかり研究所では,今年度より,家族の支援を考える研究チームを発足させた.その目的は,やどかりの里における家族支援のあり様を考えるとともに,さいたま市において,家族自身が回復していくことを支えていく仕組みや施策づくりを進めることである.
やどかりの里では,2005年度にやどかりの里の家族の状態調査を行った.その調査から浮き彫りになったことは,子どもの発症を機に家族全体の生活が変化を余儀なくされたり,必死に子どもを支え続け,必要な支援を求めたくても声にならない状況があるなど,家族は支え手として大きな役割を担い,同時に多くの苦悩を抱えているのであった.
こうしたことから,支え手としての家族でありながらも,家族自身が回復し,自らの人生を歩んでいくことが可能となるような支援や仕組みを確立することが課題として導き出された.まずは,様々な家族支援の取り組みなど,学習を重ねていくことが必要であると話し合われ,今回のサロンを開催することとなった.
伊勢田先生によれば,イギリスにおける精神保健改革の流れは,1998年の医療改革から始まる.「必要な国民に必要とされる最高の医療を届ける」という基本方針の下,1999年には,精神保健対策10カ年計画において7つの全国基準が示され,その中に,家族支援の強化も盛り込まれた.家族の危機的状況を解決するためのチームや訪問治療を行うチーム,また,発病時に初期介入するチームや家族支援を専門とするソーシャルワーカーの導入など,家族への支援として様々な取り組みが始まっていく.中でも,家族支援を担う専門職は,精神疾患や治療についての情報提供のみならず,家族の休息支援や権利擁護,24時間危機介入などを行い,家族の様々な状況に対応するべく,きめ細かな仕組みが作られている.
こうしたイギリスにおける家族支援のあり様から重要と考えられることは,家族自身の行動を変えるよう支援するのではなく,家族自身が回復できるよう環境を整え,家族のニーズに応じて必要な仕組みを作り出してきたことにある.エビデンスベースドの考えを持ち,つねに見直し,仕組みをバージョンアップさせてきている.
そして,家族支援のあり様として,伊勢田先生は自身の臨床医としての経験を交えながら,各々の立場に立って話を聞くことの大切さ,そして,その事柄から共通点を見つけ一緒に考え,具体的な行動を起こしていくことが大切とお話しされ,新しい視点で家族支援を考えていく必要性を強調された.
今回のサロンを受け,研究チームでは,イギリスの家族支援の考え方や制度化までのプロセス,具体的な支援方法などを学習するとともに,やどかりの里の家族への聞き取りを重ねながら,日本における家族支援の仕組みづくりの課題を導き出していく予定である.
(見沼区障害者支援センター 三石麻友美)
<9月15日発行>
私の意見
障害のある人の権利条約の意義
6月30日に開催された東俊裕さん(DPI日本会議 弁護士)の講演を伺う中で,私は,この条約が批准されれば,障害のある人の平等権を始めとした基本的な人権が今以上に保障されることになると感激を受けた.以下,障害のある人の権利条約についての講演を伺っての私の考えを述べさせて頂く.
憲法14条(法の下の平等)をめぐって,障害のある人の平等権についてポイントとなるのは,形式的平等の立場を取るか,実質的平等の立場を取るかである.東さんの講演の中でも,従来取られてきた形式的平等ではなく,実質的平等が取られるべきとの主張がなされていた.形式的平等とは,前提条件さえ平等にそろえれば,あとは個人の努力で頑張れ!ということである.卑近な例で言えば,形式的平等の立場からは,年収1千万円の者には100万円の,年収500万円の者には50万円の税金を課すことになり,同じ1割の負担をしているため,形式的には平等であるものの,貧富の格差は初めのまま残ることになる.これが,いままでの通説の立場であり,健常者と障害のある人の格差はそのまま残されていたのである.そして,東さんも主張されていた実質的な平等とは,障害者等の弱者に対しては,国家が手を差し伸べてその格差を是正していくというものである.先ほどの例で言うと,年収1千万円の者には200万円の,年収500万円の者には50万円の税金を課すということであり,累進課税によって,貧富の格差は縮まることになる.東さんの立場,そして今回の障害のある人の権利条約の立場は実質的な平等を障害のある人に認めることであり,これまでの障害者施策に大きな変革をもたらすものである.
では,このことが,判例・通説の考え方からするとどういう意味があるかという観点で議論をしてみたい.憲法14条に関する通説的な考え方は「平等」とは,法の取り扱いの平等という形式的な平等を意味するとされてきた.これは,14条を根拠に現実の社会的・経済的不平等の是正を国に請求する権利が認められるわけではなく,それは25条以下の社会権の保障によって具体化されることを憲法は予定していると考えられてきたからである.
一方,憲法25条以下の社会権は抽象的権利であるとするのが通説的な考え方である.抽象的権利は法規範性はあるものの,裁判規範性は原則としてないため,25条等を直接の根拠として裁判で争うことはできず,社会権を保障する立法が存在して初めて裁判規範性を備えると考えられている.今回の東さんの講演の中でも,裁判所の判決として,「どの程度まで実質的平等を実現するか立法に委ねられている」とされたのは,このためである.しかるに,今回の障害のある人の権利条約によって,25条以下の社会権を具現化した立法がなされることが予想されるため,ADA(アメリカ障害者法)等の法律と同様,障害のある人の実質的な平等が保障されることになる可能性が大きくなってきた.しかし,そのためには,この条約を批准した上で,障害のある人に対する合理的な配慮を求める立法がなされる必要がある.この点,日本国政府の対応に大きな注目が寄せられると共に,関係諸氏の大きな運動のうねりに期待するところが大である.ゴールはまだまだ先にある.しかし,ゴールの灯火は燈された.皆で力を合わせて頑張ろうではないか.
(やどかり研究所運営委員 田中 良明)
<8月15日発行>
やどかり研究所サロン(拡大学習会)開催
障害のある人の権利条約を学んで
私たちの権利意識を育てる
2007年6月30日,やどかり研究所サロンを拡大した形で,「障害のある人の権利条約」を学ぶ機会を設けました.研究所の会員以外の皆さんにも多数参加いただきたいと思い,埼玉県障害者交流センターのホールを会場に,83名の参加を得ました.やどかりの里のメンバーを始め,障害のある人の参加が多く,関心の深さが感じられました.
やどかり研究所の今年度の活動の柱として,障害のある人の権利条約(以下,権利条約)を学ぶことを掲げており,その取り組みの最初の一歩でした.やどかり研究所運営委員会では,自分たちの問題としてこの権利条約について考えていくことを大切にしようと話し合ってきました.権利条約については,東俊裕さんに講師をお願いしました.東さんは,ご自分も車いすの生活をされており,国連の障害者権利条約のアドホック委員会の日本政府代表団顧問を務められ,民間委員として関わってこられた方です.
自分たちの問題として考えるために障害や難病,高齢によって,生活上何らかの障壁を感じている人たちのお話を聞かせてもらうということになりました.
そこで鴻沼福祉会の知的障害者通所授産施設で働く大槻祥二さん,以前やどかり情報館で働いていた平田建司さん(ミトコンドリア脳筋症という難病がある),やどかりの里のメンバーの堀澄清さん,そして,OMIYAバリアフリー研究会の傳田ひろみさん(身体障害のある人の立場で)が発表しました.それぞれの体験や障害によって感じる障壁,そして体験を通しての主張は,参加者の胸に響き,もっとゆっくり時間をかけて聞きたかったという声がアンケートにも多数寄せられました.
東さんは,条約のあらましに触れ,権利条約の重要なポイントである「合理的配慮」という考え方を分かりやすく説明し,身近な生活の中にある差別の実態を浮き上がらせ,障害のある人自らが声を上げていく大切さを熱く語ってくださいました.そして,千葉県における差別禁止条例制定の取り組みを紹介し,地域での活動の大切さを訴えました.
障害のある人が自ら声をあげること,自分たちにとって何が差別なのかを考えていくこと,そういう中で自分たちの権利意識を育てていくこと,大切な取り組み課題が示されました.
やどかり研究所では,これからも権利条約を自分たちの問題として考えるということを続けていこうと話し合っています.
(やどかり研究所 増田 一世)
<6月15日発行> やどかり研究所主催 学習会
講演 私とやどかりの里〜母の介護を通じて感ずること
2006年5月26日(土),やどかりの里定期総会後に恒例のやどかり研究所主催学習会が開催された.今年は「私とやどかりの里 母の介護を通じて感ずること」と題し,講師は松田正己先生(静岡県立大学看護学部教授)にお願いした.
松田先生とやどかりの里とのお付き合いは,松田先生の学生時代に遡り,すでに30年経過しており,「餅と餅網の関係(近すぎると焦げてしまうが,離れすぎていると焼けない)」(講演より)を保ちながら,時には厳しく,時には温かくご助言くださっている方だ.現在もやどかり研究所副代表として,忙しい合間をぬって関わり続けてくださっている.今回の学習会の講演では,やどかりの里との長い関わりの中から,やどかりの里の活動をどう見つめてきたのか振り返りながら改めてご提言いただくとともに,松田先生自身の歩まれてきた国際協力や国際保健との関わり,現在もお勤めの静岡県立大学に移られてからの地域保健福祉活動,そして現在75歳のお母様の介護を通して感じる,日本の現状,問題点にまで踏み込んだものであった.私たちの暮らす地域を,安心して暮らせる環境にするにはどう創り合っていったらよいかを1時間半に渡り,お話してくださった.
会場からは特に,お母様の病状が,糖尿病からの失明,心不全,腎不全,脳梗塞,骨折……と重複した場合,現在の医療制度では本人,介護者ともども行き場のない状況に追い込まれてしまう現状を話された場面で,多くの方が頷き,共感していた.同じ介護をした体験,その中でのさまざまな思いを重ねつつ聴いていたのだと思う.お母様との海外旅行や入院中のお写真がスライドに映し出されると,それまで少し緊迫していた会場内が,ほっとため息を漏らしたような温かい空気に包まれたのが印象的であった.
最後に,お母様の介護と仕事との両立の難しさに悩む松田先生が励まされたという鈴木大拙さんの言葉を紹介したい.
「悩みは分別からきている,人格が深いほど,悩みも深い.悩むように人間は作られている」辛く苦しいこともあるけれどいっしょに頑張っていきましょう!という松田先生からのエールを受け止めた会場から,万来の拍手が起こり,学習会は幕を閉じた.
(工藤 菜乃)
*「響き合う街で」41号(2007年5月末日発行)では,松田正己先生の「提言 変革の時代に求められる保健・医療・福祉」を掲載しております.こちらも是非ご一読ください.
<3月15日発行>
第5回やどかり研究所報告・交流集会報告
実践,研究を発信する大切さを確認
〜新たな活力を得る機会に〜
2007年2月17日(土)〜18日(日)の2日間,やどかり情報館において,第5回やどかり研究所報告・交流集会が開かれた.
やどかり研究所の1年に1回の会員の研究・実践報告,そして交流を目的とした報告交流集会も,今年で5回目を迎え,50名もの参加者が集まった.
1日目は,やどかり研究所の代表・藤井達也(上智大学社会福祉学部)の開会挨拶で始まった.
続いて,やどかり研究所の2006年度事業報告を,増田一世(やどかり研究所事務局代表)が行い,1年間を振返った.やどかりの里の職員が中心となって学習する場となっている研究班の報告では,「温故知新班」から,椿原亜矢子(まごころ),久松明子(浦和生活支援センター),阿部友恵(大宮中部生活支援センター)が,日々の実践を踏まえ,やどかりの里の歴史,社会情勢を学んでいると報告があった.やどかりの里の若手職員の熱意を感じさせ,会場からも「頼もしい」と好評であった.
その後,本交流集会のメインである会員による研究・実践報告と討論に入り,計9本の報告があった.中でも,松長麻美氏(東京大学大学医学系研究科精神看護学分野)の『精神障害者のセルフスティグマに関連する要因』,東田全央(浦和生活支援センター)の研究はこれまでになかったユニークなものであった.松長氏は,精神障害者が自身に対して抱えるネガティブな自己概念であるセルフスティグマについて,やどかりの里が調査協力した調査の報告を,東田は,「リカヴァリ(recovery)」という言葉の普及と「現実」の構築という視点から,当事者における「リカヴァリ」の浸透について研究してきたことを報告してくれた.この2つの発表のキーワードである,「スティグマ」「リカヴァリ」という用語は,精神障害者の取り巻く環境に深く関係し,地域生活の上でも大事な要素であることから,会場からの質疑も相次いだ.
発表後,参加者は関心のある発表者のブースにわかれ,自由討論の時間が設けられた.普段,なかなか膝を突き合わせて話す機会のない研究所会員同士が,質問を投げかけ,発表者がそれに応じる,熱い議論が繰り広げられた.
1日目の締めくくりである全体討議では,多忙な中,日々の実践と研究に邁進される発表者への評価の声とともに,引き続き研究が続けられ,地域の実践との協働へ活かされることへの期待が寄せられた.
2日目は,増田より,昨年8月に行なわれた,きょうされん加盟団体職員アンケート「障害者自立支援法にともなう影響調査・職員個人への調査結果から」の報告があった.障害者自立支援法は,障害のある人の生活に「負担増」という深刻な影響を及ぼしている.一方で,障害のある人を支援する職員へも影響が大きく,さまざまな不安を抱え,労働強化の実態が報告された.
続いて「自己責任=格差社会への対抗と,社会労働運動の課題」と題した荒井一弘氏(新潟県農協労連・書記長)による特別報告があった.荒井氏は,やどかりの里の状態調査等でご協力いただいている鈴木文熹先生(南信州地域問題研究所)を通じてお付き合いがあり,地域と繋がった労働組合運動をすすめていることから,やどかりの里の活動に共感していただき,昨年の報告交流集会にご参加いただいたり,「響き合う街で」に執筆していただいたりしている.荒井氏個人の歩んできた道と,運動への思い,現在の社会情勢を,荒井氏の視点でわかりやすくお話しいただいた.
最終討議では「内容の濃い2日間だった.明日からの地域での暮らしを支える上で,活力をもらった」というコメントが寄せられ,心地よい疲労とともに充実した2日間であった.
*「第5回やどかり研究所報告・交流集会」の詳細は,2007年8月発行の「響き合う街で」42号におきまして,全面特集いたします.是非ご覧ください.
(工藤 菜乃)
<12月15日発行>
第5回やどかり研究所報告・交流集会
(2006年度)のご案内
日 時 2007年2月17日(土)
報告交流集会 9時30分〜17時45分
懇 親 会 18時00分〜19時30分
2007年2月18日(日)
報告交流集会 9時30分〜12時00分
会 場 やどかり情報館 2階ホール
(さいたま市見沼区染谷1177-4 Tel 048-680-1891〜1892)
開催にあたって
このままの日本で大丈夫なのだろうかと思う日々が続きます.子どもの自殺が社会問題化し,教育の荒廃が叫ばれる中,教育基本法が改正されようとしています.一方で,障害者自立支援法に関しては,各地域での問題を指摘する声が大きく上がり,さいたま市では市内関係者が展開した請願署名行動の力で,さいたま市の独自軽減施策が実現するなど,市民の力が施策を動かしました.
そうした状況の中,「やどかり研究所報告・交流集会」を開催いたします.やどかり研究所の会員の皆様に対して研究所の1年間の活動報告を行い,同時に研究所会員の研究成果や活動の報告の場となっておりますので,ぜひ活発なご参加をお待ちしています.毎回,多くの方にご報告をいただき,会員同士の交流の機会にもご活用いただいております.報告・交流集会でご報告いただく内容は,現在進行形の研究や活動でも結構です.中間報告的な内容でご発表いただき,参加者との意見交換などを今後の研究や活動の参考にしていただけたらと思っています.
そして,今回の特別報告は,新潟県農協労働組合連合会書記長の荒井一弘さんにお願いしました.ここ数年,地域づくりという共通項を見出し,交流させていただいています.指令型の組織からの脱却し,地域と職場,仕事をつくる労働組合への転換をはかられています.荒井さんのこれまでの歩みをご紹介いただきながら,佐渡地域の状態調査のご報告などもいただきながら,これからの地域づくりの方向性をお話いただければと考えています.
今回も2日間にわたる集会となりますが,参加いただく皆様との話し合いの時間を大事にたいと考えています.皆様のご参加を心よりお待ちしております.
2006年12月5日
やどかり研究所
事務局長 増田 一世
プログラム(予定)
2月17日(土)
9:00〜 9:30 (受 付)
9:30〜10:00 2006年度やどかり研究所事業報告・研究班の報告
10:00〜12:00 会員による研究・実践報告と討論
12:00〜13:00 (昼 食)
13:00〜14:30 会員による研究・実践報告と討論
14:30〜15:30 自由討論
15:30〜15:45 (休 憩)
15:45〜17:45 全体討議
18:00〜19:30 懇親会(語りつくせなかったことを,存分にお話ください)
2月18日(日)
9:30〜11:00 特別報告 「今日の時代とどう向き合っていくのか」(仮)
新潟農協労連の模索を通して
講師 荒井 一弘(新潟県農協労働組合連合会書記長)
11:00〜12:00 2日間を通しての全体討論
研究報告・実践活動報告の募集
発表を希望される方は,申込書(3頁目)にご記入の上,お申し込みください.
発表の申込みの締め切り日は,2006年12月22日(金)です.発表は一演題30分を予定しています.
討論を大切にしたいと思いますので,発表20分,討論10分という目安で考えてください.
なお,報告される方で,まだやどかり研究所の会員でない方は,報告・交流集会までに研究所会員としての 登録をお願いします.
参加費 研究所会員は2,000円(資料代として)
会員でない方は,参加費5,000円となります.
昼 食 600円<2月17日のみ>(飲み物付きでご用意しております)
懇親会費 2,500円
参加の申し込み
ご案内のちらし
*参加の申し込みの締め切り日は,2007年2月9日(金)です.
研究所サロンのお知らせ
「社会的企業」について学ぶ
ジェームズ マンディバーグ氏 (コロンビア大学助教授・上智大学客員助教授)
通訳:小林 信子(東京精神医療人権センター)
日 時 2006年12月16日(土)13:30〜16:00
会 場 やどかり情報館 2階ホール
さいたま市見沼区染谷1177−4
TEL 048−680−1891〜1892
FAX 048−680−1894
申し込み先 やどかり研究所事務局(会場の準備の都合がありますので,必ずお申込ください)
参加費 研究所会員 500円
研究所会員以外 1000円
やどかりの里には,精神障害のある人たちがそれぞれの健康を守りながら働く場所があります.障害があっても支援を受けるだけではなく,地域に貢献できる存在であると考え,活動を展開してきました.しかし,障害者自立支援法によりこれらの活動の存続は極めて厳しい状況に立たされています.
障害者福祉が大きな曲がり角に立つ今,障害者自立支援法をいかに活動の部分とし,地域に必要とされる活動として発展させていくか,私たちの発想の転換が求められています.そして,地域の中のさまざまなニーズに応える事業を障害のある人とともに展開していくことが,これからの活動を切り拓く1つのあり方であると考えています.
今回のやどかり研究所サロンは,アメリカおよび日本における心理社会的リハビリテーションの実践について深い知見をもつジェームズ マンディバーグ氏をお迎えします.精神保健福祉を含む社会福祉の分野で生活の困難を抱えた人々が取り組む社会的企業についてお話をいただく予定です.
マンディバーグ氏は,精神障害のある人のサブコミュニティを支える経済的方法として,社会的企業に注目されています.内外のさまざまな取り組みをご紹介いただきながら,社会的企業の基礎について学び,私たちのこれからの活動展開に向けたヒントを掴み,福祉でもない,営利企業でもない,もう1つの道を模索するための時間にしたいと考えております.
通訳は,マンディバーグ氏と長いお付き合いである小林さんにお願いいたしました.
皆様のご参加をお待ちしております.
ご案内ちらし
<11月15日発行>
生活協同組合のイロハを学ぶ
これからの活動づくり,地域づくりをいっしょに考えよう
10月7日にやどかり研究所サロンが開催された.
今,やどかりの里はもとより,多く関係者が,障害者自立支援法の影響から障害のある人のいのちと暮らしを守り,活動を守っていくのかという課題に直面している.今回のサロンは,そうした課題に取り組む一方で,新たな活動のあり方を模索するための学習の機会として企画されたものである.地域での支えあいを基本にした活動づくりを行っていく際のひとつの手がかりとして生活協同組合の基本的なことを学ぶことにした.
講師は,医療生協さいたまの設立からかかわってこられた櫻庭宏一さん,さいたまコープで長年活動されてきた徳田五十六さんのお2人である.
まず,櫻庭さんからは,生活協同組合のあらましについてお話をお聴きした.話の冒頭,「医療生協を生涯の仕事にして良かった」と話され,医療生協を作った昭和30年代後半当時の思いを振り返りながら話が進んでいった.櫻庭さんがこの活動にかかわるようになった頃は,埼玉でも少し田舎に行くと,医者にかかるのは死ぬときくらいという状況がまだ残っていた時代であったという.病気の治療だけではなく医療を取り巻く制度で限界を感じ,本当の意味で医療,保健,福祉の充実を実現するには広範な人々の力が必要で,病院ではなく組合員が主人公の,協同を基本にした医療生協設立につながっていった.住民にも医療を知ってもらい,運営にも参加してもらって発展させようと考えられたそうだ.さまざまな病気の患者会とは違い,医療生協は健康な人々が多数を占める医療団体である.医療生協の出現で,はじめて病気と健康の双方の問題が住民の運動となったのである.
次に生協の歴史や生協法に触れながら基本的なことをお話いただいた.1848年にイギリスでロッチデール公正先駆者組合が設立され,そこで確認された7つの原則が生協の基本となっている.生協法には,こうした原則を含め,人々の長年にわたる共同の歩みのなかで確かめられたルールがまとめられている.生協法の第1条では,「この法律は,国民の自発的な生活協同組織の発展を図り,もって国民生活の安定と生活文化の向上を期することを目的とする」とあり,平和憲法の精神(憲法第25条〔生存権,国の社会的使命〕)を暮らしの運動に生かすための法律であることが明記されている.
また,生協の要件として,
1)人と人の結合であること
2)組合員の生活の文化的経済的改善向上を図ること
3)加入脱退の自由(門戸開放)
4)1人1票
5)配当の制限
6)政治的「中立」
を挙げられた.
お話をお聴きして,生協は,暮らしのために経済の仕組みを民主化し,今の暮らしをできるだけ豊かにしていくことを目的としていることや,組合員が「出資者」であり「運営者」であり「利用者」でもあることが良く分かった.
徳田さんからは,生協運動の実際について具体的なお話も交えてお聴きした.切実な生活要求を実現するための主体的,継続的組織として,組合員の学習を重視していること,生活要求を運動化し実現するために話し合い,一方で事業化し,一方で社会運動を行うことなど,やどかりの里の活動で大切にしているものとの共通点を確認することができた.
また,「切実な生活要求は,人権を守る視点で組合員の生活を見つめ,話し合うことから見えてくる」「基本は自立した生活ができるということ」「分からなければ組合員に聞け,が鉄則だ」など,示唆に富むお話もたくさんあった.
今回,生協運動とやどかりの里の活動とを重ね合わせて聴くことができる部分も多いサロンであった.人間のいのちや暮らしを守るという共通基盤に立って活動している方々がたくさんいることに励まされる一方で,住民の生活要求として障害福祉の問題が位置づいていくことが今後の課題なのだと,改めて考えさせられる機会ともなった.
(研究所副代表 白石 直己)
<10月15日発行>
アメリカの精神医療の現場から見えてきたもの
ゲストに丸田俊彦先生をお招きして
9月9日,やどかりの里情報館にて丸田俊彦先生(前埼玉県立精神保健福祉センター長・精神医療センター病院長)をお招きしてやどかり研究所サロンが開かれた.埼玉県内外から当事者,家族,精神保健福祉関係職など,会場の席がちょうど埋まるほどの参加者があった.
丸田先生はアメリカの代表的な病院,メイヨー・クリニックに勤められてきた.1970年代初頭の入院を中心とした精神科の医療体制の中,病院ではなく,地域で患者の人間らしいところで治療したいと望まれ,医師としての成熟のプロセスを知る専門医制度が整っているアメリカに渡ったと話された.会場からは日米の精神医療や福祉制度の違いに関する質問が出た.
先生は,アメリカで携わった精神科医療と国内の状況について,実例に基づくエピソードを紹介し,安易に比較できないくらい背景にある法制度,医療保険制度,医療・福祉体制,薬物依存といった社会状況が異なることを示して下さった.参加者の関心が高かったテーマは,家族によるケアとその支援体制だった.
先生は,参加者それぞれの質問に答えながら,アメリカでは自己責任についての価値観が全く異なると説明された.特に社会に責任を負わせることに,本人も家族も何も負い目を感じず,医療保護入院から退院後の経済的,日常生活上のケアまで抱え込む日本の家族とは全く違うと言われた点は印象的だった.また,先生は国内の医療の現状にも触れられた.
日本では薬と心の問題を,医師と臨床心理士というように制度的に区分していて,医学的処方が終り,患者が退院すると,精神科医も当事者と関わらなくなる傾向がある.精神科の医師が受けたトレーニングは1960年代の入院治療が中心で,医師が医療の社会的責任について考えることは少なく,そうしたトレーニングを受けていないと指摘された.先生は,これからは医療ではなく,福祉に重点が置かれるだろうと言われた.しかし,医療の現場ではソーシャルワーカーを1人増員するために大変な労力が必要だと話し,福祉的支援の体制整備には多くの障壁があると指摘された.
一方で,最近ご覧になった病院でのグループ治療の特徴を紹介された.アメリカのグループ治療と異なり,日本では参加者にマイクを渡し,それぞれが順番に自分の経験を話しているだけのようだが,実はグループ活動に入ることで個人を治すのではなく,グループを治すという発想があると言う.当事者のケアの多くを家族が担い,専門職による社会的責任が意識化されていない日本の実情や,日本人の感性に合っているのではないかと言われた.個人が直接社会の中へ入ってゆくのではなく,グループという媒体を介して社会に入ってゆくこと,そしてグループの中で成熟してゆく点は,示唆的だった.
最後に,先生はご自身が常に心に止めていることを,柏手で表現して下さった.柏手は右手と左手の両方が打ち合わせて音を出したとき「柏手」になる.右手が左手を打ったのでは「柏手」にはならない.先生は,精神科医療に携わるとき,人と人の間で物事は起きていると考えていると話していた.例えば,患者と医師の間で,メンバーとスタッフの間で,当事者同士の間で物事は起きている.日常生活でも,物事はそのように起こっているのだろう.
今回のサロン参加者と丸田先生の「柏手」は,深刻な内容を含みながらも,和気藹々とした楽しいものだった.この音は一体どのような音につながってゆくのだろうか.心密かに楽しみにしている.
(研究所運営委員 間宮郁子)
<5月15日発行>
障害福祉分野の大転換期に
研究所として取り組めることは何か
去る4月8日,研究所の運営委員会が開催され,今年度の態勢の確認,パンフレットの作成,研究所サロン,今年度の事業課題などについて検討を進めた.特に,今年度の事業課題については,障害者自立支援法の施行を受け,障害福祉分野の大転換でもあるという厳しい状況の中,研究所として取り組んでいくことはについて検討の時間を割いた.
障害者自立支援法(以下,法)が障害のある人の暮らしにどう影響するのか,特に定率負担の導入が及ぼすであろう影響は計り知れない.既に,支援費施設においては退所者が続出しており,また,退所を検討中という利用者もいる.本人の意志に反して利用を断念せざるを得ない状況となっている.きょうされんが急遽行った緊急調査の結果では,全国でおよそ150人の人たちが通所施設の利用を断念したという.経済的に利用料負担の厳しい人は福祉サービスから切り捨てられる結果となっている.国は,「現在のサービス水準は低下させない」「きめ細かな負担軽減措置を講じている」と説明しているが,実際には負担増からくる不安や生活変化を余儀なくされているのだ.
運営委員会では,こうした法がもたらす影響について研究所としても取り組んでいくことが確認され,その内容について様々な意見が出された.精神障害のある人の労働の状況などの調査研究などについても検討を重ね,障害のある人の労働の状況がどうなるのか,といった視点で調査研究は可能かどうか,意見を出し合った.国は法の中で,障害のある人の一般就労への支援を強化する方向を提示している.しかし,そうした仕組みが精神障害のある人にとって果たして有効なのか,また,一般就労後の状況なども含め追跡調査などに取り組めないだろうか,といった提案も出された.
所得保障も含め,障害のある人の労働支援の仕組みをどう構築していくかは,今後の大きな課題である.法の中で示されている就労支援の施策だけでは,障害のある人の就労は実現しづらい.障害のある人が自分の健康を保ちながら,やりがいをもって安定して働くということを実現していくためには,地域においての労働支援のシステムを構築していくことが必要となる.既に,障害のある人の就労支援は様々行われている.そうした実践からも学びながら,今後の取り組みの課題も含め,私たちが学習していく必要性があることも確認され,今後の継続した検討課題として残された.
また,法の内容から,3年後の見直しに向けて障害福祉と介護保険との統合の方向性が読み取れるが,障害福祉と介護保険の仕組みが本当に合致するものなのかといった問題もある.改正介護保険法の内容や,現在の現場での取り組みや課題なども含め,学習していく必要があることが確認された.
法が持つ問題は様々にあるが,障害のある人の支援に必要な仕組みを地域で構築していく,といった視点に立ち,障害のある人が法の被害を受けることのないよう問題点を明らかにしにし,改善すべき点を示していけるよう,研究所として取り組むべき課題はあるだろう.今後も継続して検討してければと考えている.
その他,研究所サロンについては,6月に埼玉県立精神医療センター所長の丸田先生をゲストに迎え,アメリカの精神医療の光と影についてお話いただく予定となっている.
研究所の代表については,代表者の辞退があり1名変更となる.副代表,運営委員,事務局の態勢については変更ない.
今年度も慌しい中,事業がスタートした.研究所として,障害のある人の暮らしやいのちを守るといった視点に立脚し,活動に取り組んでいきたいものである.
(研究所代表 三石 麻友美)
<3月15日発行>
報告
第4回やどかり研究所報告交流集会
2月18日(土)・19日(日),やどかり研究所報告・交流集会がやどかり情報館で開催された.隔年で開催され,今回で第4回目となった.参加者は80名を超え,北は,山形,新潟,石川,南は,長崎,福岡,島根等,全国から会員が集まった.
1日目は,研究所の事務局より事業報告が行われ,その後,研究所会員による9題の研究・実践報告が行われた.
やどかりの里からは,福祉工場の実践の協働の意味と価値を研究した報告,障害当事者が参画する退院支援システムの実践報告,他専門領域との一連の学習から見えてきた「新しい公共性」についての報告,カナダ・カルガリー市におけるメンタルヘルスシステムの研修報告,の4題が発表された.
その後一般会員からは,長期入院を体験した精神障害者の質的調査の研究報告,さいたま市における精神障害者の退院支援に関する取り組み,島根県の社会福祉法人亀の子の取り組み,地域づくり型保健活動(SOJOモデル)の住民のエンパワーメントに関する研究,精神障害者の家族の介護経験における社会的規範の影響についての研究,のそれぞれが発表された.
特別報告では,「障害者自立支援法と社会保障改革 障害者福祉の介護保険化のもたらすもの」として伊藤周平氏(鹿児島大学法科大学院)のお話をお聴きした.伊藤氏は,障害者自立支援法の問題点として,応益負担と支給決定プロセスの不合理さ,義務規定のおかしさ等を指摘し,法の施行3年後の見直しの際は,確実に介護保険と統合され,今以上に社会福祉の質が変容し,社会保障そのものが後退してしまう状況にあると述べられた.
2日目のシンポジウムでは,「地域での政策決定過程に住民はどう参画するのか」と題し,まずシンポジストそれぞれから,介護保険法の改正,健康日本21,障害者自立支援法の評価と課題が出された.次に,住民の生活実態に合わせた制度や施策を基礎自治体でどのように構築していくか,島根県出雲地域,埼玉県所沢市での取り組み,やどかりの里のさいたま市での取り組みが合わせて報告された.シンポジウムでは,国の動きを視野に入れつつ,地域での課題を地域の関係者とともに考えていくという基本姿勢があらためて強調された.
集会最後の総合討論では,介護保険法改正から,障害者自立支援法の施行,3年後の統合化の動きは,権利としての健康というヘルスプロモーションの理念を形骸化するものであり,健康と政策,運動と学習を切り口に,住民活動に広がりをつけていくことの重要性が確認された.また,1日目の実践・研究報告のような日常実践の課題整理や仮説検証していく地道な研究活動の成果を発表する場の大切さもあらためて確認され,2日間の集会が閉会された.
(やどかり研究所事務局 宗野 政美)
今こそ権利保障の理念の再検討を
特別報告「障害者自立支援法と社会保障改革−障害者福祉の介護保険化のもたらすもの」
第4回やどかり研究所報告・交流集会において,報告された「障害者自立支援法と社会保障改革−障害者福祉の介護保険化のもたらすもの」(伊藤周平氏<鹿児島大学>)について報告する.
講演は,社会保障改革の動向説明に始まり,2004年の年金改革に続き,社会保障改革を実現した「介護保険法」と,介護保険制度への統合を想定して策定された「障害者自立支援法」という2つの法律の成立の経緯や問題点について説明された.そして,今後の課題を報告されるという流れであった.
権利保障である社会保障立法が,「持続可能」という名の元に財政抑制の手段となり,その中でも,運動の脆弱な高齢者福祉分野から改革に手が付けられたこと.そうした背景の中で作られた介護保険法において,介護給付費の増大により保険料の大幅引き上げが懸念されるようになるが,応益負担である介護保険制度では保険料を大幅増にもできない.そのような中,2003年に実施された支援費制度は,わずか1年で安定した財源確保が難しいことが露呈し,介護保険への統合が視野に入り出した.しかし,保険料の負担が増える経済界からの反発や,慎重論議を求める障害者団体の声から,統合は,一度は先送りにされた.そこで将来的に介護保険化する布石として打ち出されたのが,障害者自立支援法である,という内容のことが話され,政府の考える社会福祉再編の最終モデルは,「介護保険化」で負担なければ給付なしという保険原理の強化と応益負担が徹底して図られていく,と述べられた.
講演の最後に,障害者自立支援法が成立したからといってがっかりしているだけでなく,憲法25条に基づいた社会保障の理念を再検討する作業や,対案の作成など,何かに興味を持った子どものように,執念深い運動が必要である,としめくくられた.
先生の話を受けた質疑応答では,憲法を盾にした訴訟への指南など,法律を専門とした先生へ向けた質問が多数寄せられた.これらの質問に対し,「応益負担そのものが憲法第25条に反するという理論で進めていくのは難しい.しかし,訴訟を起こして裁判になれば,勝つ,勝たないに関わらず注目はされる.また,障害程度区分判定結果に納得がいかなければ,どんどん不服申し立てをしていく.そして,障害者自立支援法の代案づくりは,皆さんだけで作るのが難しければ,皆さんの案を元に私が作成します」という力強い意見を聞くことができた.
政府の進める政策は,「高齢者福祉と障害者福祉」「行政や民間」「利用者と職員」など,あらゆる立場の者が分断し対立する方向に進められている.しかし,生活破壊の進む今こそ,手を繋ぐことが大切な時だと思う.そういった意味では,法律を専門にする伊藤先生とも今回手を繋ぎ合えたことは私たちにとって大変有意義なことであった.
「障害者自立支援法を廃案にするまでは死ねない.そう思えばエネルギーも湧いてくる」と言った職員の言葉が印象的であった.
当日の模様は2006年8月発行予定の「響き合う街で」38号にて収録予定である.そちらもぜひ一読いただきたい.
(長谷川 健一)
<1月15日発行>
第4回やどかり研究所報告・交流集会
(2005年度)開催にあたって
この1年,政治や経済の動きが障害者福祉の活動に大きな影響を及ぼすことを実感することが多かったように思います.さまざまな制度が大きく変わる中で,何を大切に活動していくのか問われています.
さて,ご案内のように第4回やどかり研究所報告・交流集会を開催いたします.今回は昨年の反省を踏まえ,2日間の開催といたしました.
1日目は,会員の皆様に対して研究所の1年間の活動報告を行い,同時に研究所会員の研究成果や活動の報告の場として企画いたしました.
また,特別報告では,鹿児島大学法科大学院伊藤周平教授をお迎えし,障害者自立支援法と社会保障についてお話を伺うことにいたしました.伊藤周平さんは,社会保障法,社会政策論を専門に研究されています.伊藤さんは,「5.12『障害者自立支援法』を考えるみんなのフォーラム
- どうなるどうすべき私たちの明日を - 」の有識者シンポジウムで「(障害者自立支援法に)応益負担が導入されると,死人が出る.いのちに関わる問題で,憲法25条の問題です.制度を持続させるために人を殺すことになります」と発言され,私たちの問題意識を深めてくださいました.障害者自立支援法が成立し,3年後には介護保険との統合も言われている中で,「社会福祉」「社会保障」が後退していきます.その中で私たちはもっと社会保障の問題を深く考えなくてはいけないのではないかと思い,伊藤周平さんにお話をいただくことにいたしました.
2日目は,「地域での政策決定過程に住民はどう参画するのか」と題したシンポジウムを企画しました.住民の生活実態に合わせた制度や施策を基礎自治体でどう構築していくのか,そのためにどのような取り組みが必要なのか,国の動きも視野に入れつつ,地域での課題を考えていきたいと思っています.
今回は島根県出雲地域,埼玉県所沢市での取り組みのご報告,やどかりの里のさいたま市での取り組みも合わせて報告し,住民が政策決定過程に主体的に参画していくことの意味を考え,今後の活動の方向性を探っていきたいと企画いたしました.
また,集会の中で自由討論,総合討論の時間を用意し,参加くださっている皆様方との対話を大切にしていきたいと考えております.多くの方々のご参加をお待ちしております.
日 時 2006年2月18日(土)
報告交流集会 9時30分〜18時00分
懇 親 会 18時15分〜19時45分
2006年2月19日(日)
報告交流集会 9時30分〜12時00分
会 場 やどかり情報館 2階ホール
(さいたま市見沼区染谷1177-4 Tel 048-680-1891〜1892)
2006年2月18日(土)
<プログラム>
9:00〜 9:30 受 付
9:30〜 9:45 開会・事業報告(決算報告,サロンや研究班などの活動報告)
9:45〜10:45 会員による研究・実践報告(1) (各20分)
1)精神障害者と労働についての一考察 ~情報発信基地としての福祉工場の展開~
○ 宗野政美 増田一世(やどかり情報館)
2)障害当事者が参画する退院支援の活動展開
○ 三石麻友美 中村由佳(大宮東部生活支援センター)
大澤美紀(大宮中部生活支援センター)玉手佳苗(やどかりの里援護寮)
3)「協働」から「新しい公共性」へ ~研修,学習を通して見えてきたこと~
○ 白石直己(やどかりの里援護寮)
10:45〜10:55 質疑応答(10分)
10:55〜11:35 会員による研究・実践報告(2) (各20分)
4)海外研修報告 ~カナダカルガリー市におけるメンタルヘルスシステム~
○ 檜山うつぎ(まごころ) 堤 若菜 金子 猛(やどかりの里授産施設)
鈴木裕貴(大宮中部生活支援センター) 中村由佳(大宮東部生活支援センター)
5)精神障害者の地域生活構築過程における地域生活支援に関する研究
〜長期入院を体験した精神障害者の質的調査を通して〜
○ 坂本智代枝(大正大学)
11:35〜11:45 質疑応答 (10分)
12:00〜13:00 昼 食
13:00〜13:40 会員による研究・実践報告(3) (各20分)
6)さいたま市における精神障害者の退院支援に関する取り組み
○ 蔭山正子 菅谷弘子(さいたま市保健所 地域保健課)
7)「想いを科学する当事者学」から見えてきた精神保健福祉の重要性
○ 森山登美子(社会福祉法人亀の子・島根県)
13:40〜13:45 質疑応答 (5分)
13:45〜14:25 会員による研究・実践報告(4) (各20分)
8)地域づくり型保健活動における住民のエンパワーメント
~「健康せきじょう21」計画策定をとおして〜
○ 加藤昌代
9)精神障害者の家族の介護経験に関する研究
○ 半澤節子(長崎大学医学部保健学科)
14:25〜14:30 質疑応答 (5分)
14:30〜15:00 自由討論 (30分)
15:00〜15:15 休 憩
15:15〜17:00 【特別報告】
障害者自立支援法と社会保障 (仮)
障害のある人の人権は守られるのか
講師 伊藤 周平 氏(鹿児島大学法科大学院教授)
17:00〜17:10 休憩
17:10〜18:00 質疑と討論 (50分)
18:15〜19:45 懇親会
2006年2月19日(日)
9:00〜 9:30 受 付
9:30〜11:00 【シンポジウム】 地域での政策決定過程に住民はどう参画するのか
<シンポジスト>
1)出雲地域のネットワークと介護保険改正による地域課題
塩飽 邦憲(島根大学医学部環境保健医学講座環境予防医学・日本健康福祉政策学会理事長)
2)権利としての健康づくりを理念に据えた「健康日本21所沢市計画」
山本 昌江(所沢市保健センター保健師)
3)地域からの政策提言 地域のネットワークづくりの中で
三石麻友美(やどかりの里大宮東部生活支援センター施設長)
<指定発言>
松田 正己 (静岡県立大学看護学部教授)
<進 行>
増田 一世(やどかり研究所事務局長)
11:00〜12:00 2日間を通しての全体討論
12:00 終了
参加費 研究所会員 2,000円
やどかりの里メンバー 500円
その他,研究所会員でない方は,参加費5,000円となります.
昼 食 600円(1日目の2月18日のみ.飲み物付きでご用意しております)
懇親会費 2,500円
参加の申し込み
*参加を希望される方は,申込書7頁目)にご記入の上,お申し込みください.
*参加の申し込みの締め切り日は,2006年2月11日(金)です.
参加のキャンセル
*参加のキャンセルは,開催日3日前までにご連絡ください.
*前日午後1時以降のキャンセルにつきましては,全額を後日請求させて頂きます.
周辺の宿泊施設ご案内
○パイオランドホテル(さいたま市大宮区宮町1-35-2)
JR大宮駅東口から徒歩3分
TEL 048-648-0010 FAX 048-648-0014
http://www.pioland.co.jp/index.html
○マロウドイン大宮(さいたま市大宮区桜木町2-173)
JR大宮駅西口より徒歩3分
TEL 048-645-5111 FAX 048-645-3922
http://www.toto-motors.co.jp/marroad/omiya/
○パレスホテル(さいたま市大宮区桜木町1-7-5)
JR大宮駅西口下車徒歩3分
TEL 048-647-3300 FAX 048-647-0430
http://www.palace-omiya.co.jp/
ご案内パンフレット・申込み用紙(PDF)
<12月15日発行>
第4回やどかり研究所報告・交流集会
(2005年度)演題募集
日 時 2006年2月18日(土)
報告交流集会 9時30分〜18時00分
懇 親 会 18時15分〜19時45分
2006年2月19日(日)
報告交流集会 9時30分〜12時00分
会 場 やどかり情報館 2階ホール
(さいたま市見沼区染谷1177-4 Tel 048-680-1891〜1892)
主 催 社団法人やどかりの里 やどかり研究所
プログラム(予定)
2月18日(土)
9:00〜 9:30 (受 付)
9:30〜10:00 2005年度やどかり研究所事業報告・研究班の報告
10:00〜12:00 会員による研究・実践報告
12:00〜13:00 (昼 食)
13:00〜14:30 会員による研究・実践報告と討論
14:30〜15:00 自由討論
15:00〜15:15 (休 憩)
15:15〜17:00 特別報告 障害者自立支援法と社会保障(仮題)
社会福祉のゆくえを読む
講師 伊藤 周平(鹿児島大学法科大学院教授)
17:00〜17:10 (休 憩)
17:10〜18:00 質疑と討論
18:15〜19:45 懇親会(語りつくせなかったことを,存分にお話ください)
2月19日(日)
9:30〜11:00 公開座談会 (企画中)
地方自治体への政策提言 現場の声をどう施策に反映させるのか(仮)
11:00〜12:00 2日間を通しての全体討論
研究報告・実践活動報告の募集
発表を希望される方は,申込書にご記入の上,お申し込みください.
発表の申込みの締め切り日は,2004年12月21日(火)です.発表は一演題30分を予定しています.
討論を大切にしたいと思いますので,発表20分,討論10分という目安で考えてください.
なお,報告される方で,まだやどかり研究所の会員でない方は,報告・交流集会までに研究所会員としての 登録をお願いします.
<10月15日発行>
やどかりサロンの報告
ダムに沈む村で暮らす人々を見つめて
大西暢夫さん写真展・研究所サロン開催
2005年9月17日,さいたま市在住の写真家,大西暢夫さんをお迎えし,「おばあちゃんは木になった」と題して,やどかり研究所サロンがやどかり情報館で開かれた.サロンの開催と前後して,大西さんが撮影し続けてきた写真30点がやどかり情報館に飾られた.
大西さんは,全国のダムに沈む村で暮らす人たちを撮影し続けている.1991年からは,岐阜県徳山村に暮らす人たちを撮影し始め,現在も村の状況や人々を撮り続けている.
徳山村を含む8つの集落が,2007年春には日本最大のダムに沈む.来年秋には試験的に水が入る予定だという.ダム建設の計画が出されて50年.村民は1,600人.大西さんは,人口の約9割の人たちの引越しが終わっていた頃から,村に残った人々の自給自足の暮らしを撮り続けている.
大西さんは,徳山村の取材に入って,村で暮らす人たちの土地への想像を越える愛着に圧倒され,春夏秋冬の流れ,山のリズム,人間の生きていく流れが見えてきたと語る.相手の人生に自分の人生を重ね,謙虚に暮らしている人々に魅力を感じ,写真を撮り続けているのだと振り返る.出会いに感動している姿が話の中からも伝わってくる.社会の中から切り捨てられていくものへの深い思い,そして,そこにあるものに惹かれていくと語る大西さんの人間への信頼感,垣根のない心,そういったものが話の中からもまた,写真の中かからも伝わってくる.
大西さんの写真に写っている人々は笑顔が多い.今回の写真展にも,村の人たちの日常,生き生きと暮らし人たちの姿がおさめられている.また,大西さんは,ダムに沈む村に暮らす人々だけでなく,雑誌「精神科看護」の記事として,精神病院に入院中の人たちの写真も撮り続けている.どんな人生も30年,50年という時間は同じで,どっちの人生がいいということはない.静かに謙虚に暮らしている人たちの凄さを感じ,100人いたら100通りの人生があり,全てから学ぶことがあると語る.病人としてではなく1対1の対話を大切に,言葉に出ないことに魅力を感じながら,いかに世間話をするかが大切なのだそうだ.そうした時間から,その人の姿が短いながらも見えてくる,写真の人々が,笑顔が多いのはそのためかもしれないと語る.
今回のサロンには,大西さんのご近所の方々も参加しており,日常の暮らしの中でも人との間に垣根のない人柄が伺える.相手の人生に寄り添い,時には自分の人生を重ね合わせながら,相手と向き合い対話を重ねていく大西さんの姿に,参加者は圧倒され,感動していたのではないだろうか.大西さんのモノクロの写真には,そうした相手との信頼関係から写し出された人々の姿がおさまっている.社会から切り捨てられた人々への温かい眼差しであろう.
ダムに沈んだ村は全国で300か所.大西さんは,ダムに沈む村の人はふるさとをなくすこと,歴史が終わってしまった人々が全国にたくさんいる.地に這った人たちと一緒に地に這ってみると違うと語った.どこに暮らそうと,どういった人生であろうと,人間そのものの存在を大切にできる社会や地域の大切さを感じたサロンであった.
(三石 麻友美)
<8月15日発行>
やどかりサロンの報告
活動活性化のための質量一体の評価方法を学ぶ
2005年6月25日(土),東京大学客員研究員でやどかり研究所運営委員の田中良明さんをお招きし,「活動活性化のための質量一体の評価を考える−アウトカム評価,プロセス評価の方法を学習しよう」をテーマにやどかりサロンを開催した.
やどかりの里では,この数年,質量一体の評価が課題となっており,質的な評価だけでなく,量的な評価も必要だと考えるようになっている.
まず田中さんは,評価には世界観,価値観が反映されるため,それを明確にしておくことが大切だということを話された.そして,「福祉モデル」は,平均男子の社会が大前提にあり,障害者は平均男子の社会から外れたものと捉えられ,排除の社会を前提に個別救済をする世界観だと語った.そして,アメリカでは,この排除そのものをなくせと主張する「人権モデル」があるという.やどかりの里で評価のことを考える際に,やどかりの里の世界観,価値観が大切で,その価値観があって初めて何を評価するかが決まると語った.
また,行政では,数量的に効果が見える事業は続けるが,効果がないものは止めようという傾向があること,だからこそ活動や事業の評価が,施策の見直しの時にも大きな意味があると田中さんは述べた.
続いて,質的な調査と量的な調査について触れ,質的な調査は,例えばやどかりの里で行った状態調査やグループインタビューや記録化によりエッセンスを抽出し評価するのもがある.これは質的中身がわかるし,気づきが得られるという大切な方法である.しかし,今,「根拠に基づく政策」の流れでは,量的な数字で評価する方法が主流となっている.数字で評価する方法として,アウトカム評価,プロセス評価,インパクト評価についてスライドを用い,やどかりの里や本日のサロン開催を例にし,説明された.
「アウトカム評価」とは目的を評価するもので,事業の結果を評価することである.例えば,やどかりの里のメンバーは再発率が低いといった結果で評価することである.しかし,やどかりの里が目指す社会が実現できたかを評価するには,長い時間を要するので,初期の評価,サブ目標を評価する「インパクト評価」があり,インパクト評価は,初期のアウトカム評価と捉えればよいと言われた.また,再発率を下げる安心感や理解を得るためにどういうプログラムがあるか,プログラムの到達度や満足度といった活動実態の「プロセス評価」についても述べられた.
活動そのものの評価,そしてインパクト評価があり,再発率が低いと繋がるような,最終的なアウトカムまで数値で評価していくことが量的評価の1つの方法であると,私たちに身近なことで説明された.
最後に田中さんは,評価は,社会観,目的,物の見方によって変わること,比較のため,活動をする前に評価指標を定める必要があること,価値と評価は背中合わせだと述べた.
今回は,量的評価の基本的な学習の機会になった.さらに学習を重ね,質量一体の評価ができればと思う.
(佐々木千夏)
<7月15日発行>
歴史を伝えること・活かすことの課題
藤井 達也
やどかりの里の35年の歴史の中で,私が正職員だったのは,3年だけです.その前後に,研修生,主任研究員,朋友の会参加スタッフなど多様な立場で参加してきました.先の総会後の学習会に呼んでいただいて,私の個人史と精神保健法改正前後のお話をしました.近年,研究所に参加された田中良明さんに,当日の司会と機関紙の記事も書いていただきました.しかし,記事を読んで深く考え,歴史を伝える私のこだわりを意識しました.
私の当時の月給は少なかったですが,若い人(当時私も若かった)にはきちんと出していただいていました.私の話したかったのは,職員の給与は自分の事業で稼がないと,里で実践できないという財政の厳しさ,そのことを職員以外の人々になかなか理解されず,もっと内部の活動に取り組むようにと,批判されていたことです.
また,活動普遍化の発信と,活動を維持することの両立が困難で,私は苦悩していました.そんな時に法改正の動きがあり,谷中先生が社会復帰施設づくりに走り出されたのです.私は,里の活動存続に施設づくりが不可欠と考え,施設づくりの主張に賛成したのです.そこには,まったく先見の明はなく,里の活動を存続させたいという強い思いから,施設づくりを主張したのです.そして,当時の職員,非常勤職員,会員の方々が実に多様な工夫をして,社会復帰施設づくりを成功させたのです.
私は,廃品回収と雪村いずみコンサートで協力できただけです.この当時を体験した人々には自明なことを,うまく伝えられなかった私自身を深く反省しております.そして,歴史を伝えることの難しさを,考えさせられました.35年の歴史を今の活動につないで,未来の活動づくりの糧とするために,歴史をいかに伝えるか,また歴史をいかに読むか,そのことが問われています.35年の歴史を活かすために.
<6月15日発行>
活動を普遍化し発信すること,先見の明をもって勇敢に行動すること
藤井さんからのメッセージを受け止めて
2005年5月28日,やどかりの里の定期総会のあと,第5回やどかりの里の原点を学ぶ学習会「ともに生きる歩み 家族・研究者・実践者として」を開催.講師は,藤井達也(大阪府立大学・やどかり研究所代表)さん.
藤井さんの生き様・活動の軌跡は,まさにやどかり精神の実現であり,藤井さんとやどかりの里がワンセットになって互いになくてはならない存在として歴史の1ページに刻み込まれているようであった.
藤井さんは講演にあたって,まず,自分史を提示し,自らの置かれた背景と価値観の源を語られた.「家」と家族・自分との関係,兄の発病体験,個人記録の継続,精神障害者についての探求的野外調査や生活史法,キャリア分析で実施しようという試み.そのどれもが,やどかりの里の考え方や活動と必然的に結びつくものであったように思われてならない.藤井さんは言った.
「社会構造を見るだけでは,かけがえのない1人の人間の苦悩を理解することはできないし,1人の人間の苦悩だけを見ていても,その苦悩の歴史的・社会的文脈を把握することはできない.具体的現実的な日常生活の研究から開始すること」
そして,田口義子著『生きている仲間』との出会い,衝撃.運命のやどかりの里訪問.藤井さんをして藤井さんたらしめる瞬間が来たのだった.
やどかりの里での藤井さんは,やどかりの里の活動を全国に示そう,精神障害者の福祉を認めてもらおうと,まさに逆境の中をやどかりの里の仲間と走り続けた.常務理事就任,些少な月給すら満足に得られない中,爽風会・朋友の会・浜砂会との多様な関わりや連続ワークショップの中から,自ら学びを得て成長を重ねていかれた.そのような藤井さんへ「素敵な藤井さん」という言葉が学習会当日,フロアーから挙がった.精神保健法改正に対応して「一坪運動」を開始した先見の明.一年遅れていたらバブルで土地を買うことはできなかった.これが社会復帰施設づくりを確実なものへと進め,「職員主導の取り組みを,共通の課題への取り組みとしていく」こととなった.「雪村いずみコンサート」での240万円の収益,「雪の中の募金活動など大変な困難を乗り越えて,社会復帰施設は完成した」.
この様な経験の中から藤井さんは「目の前の壁に向かっていくと壁と壁の隙間が見えてくる」と言われた.これに対し,やどかりの里・藤井達也誕生の立役者とも言うべき柳(田口)義子さんは「その隙間に気づくのは感性である」と語られ,これは若いやどかりの里関係者にも示唆に富んだ言葉となった.
現在,障害者自立支援法などをめぐり,混乱の中にある精神保健福祉活動であるが,一人一人の人生を大切にし,こうした活動を普遍化,発信していくと共に,先見の明をもって,勇敢に行動していくこと,それは今の私たちに最も求められている大切なメッセージであった.
やどかりの里は,今までもこれからも,やどかりの里であり続けるであろう.そして,その精神を全国に広めていかなければならない.そのためのスモールステップを今日から私たち一人一人が踏み出していかなければならないと思わされる学習会であった.
(田中良明・やどかり研究所運営委員)
<5月15日発行>
実践と向き合う
さまざまな研究課題
去る3月26日,やどかり研究所運営委員会が開催され,平成17年度の事業計画についての検討が行われた.
研究所の活動は,月に1回程度の運営委員会を開催し,そこでの話し合いを基盤に進めていく.運営委員の態勢も,昨年度より継続してそれぞれにお願いすることとした.
研究班は,「社会の動きを知るための学習班」と「活動の基盤を見つめ現状を捉える力をつける学習会」が昨年度より継続していく.
また,やどかりの里として,障害者自立支援法の施行が予測される中で,自治体の障害者施策のあり方を福祉現場の視点から提起することや,障害認定の評価に対抗すべく,精神障害者の障害特性を踏まえたICFを活用したアセスメント方法の研究等,新たな研究課題として上がっている.
これらの課題に対し,研究所としても今後運営委員会で検討を進めていくこととなった.
また,やどかりの里の活動評価は,過去6回に渡る人づくりセミナーの中で,積み残こされている課題である.実践モデルを提示し,効果判定を示すことは,特に行政との折衝,政策を提案する際には重要である.
セミナーでは,地域活動の展開には,関わる人々に注目し,自分たちの活動や自分たちが暮らす地域の自律性を意識すること(主客一体),組織に注目し,対話と共感から生まれる価値を組織活動に具体化していくこと(時空一体),そして,全体に注目し,価値に基づいた組織活動の評価を行うこと(質量
一体)の重要性を学んできた.
しかしながら,やどかりの里の活動を客観的な量の視点で捉え,質量一体の活動評価の事例を表すには今一歩至らないできている.
今回は,運営委員の1人でもある田中良明氏が呼びかけ人となって,やどかりサロンの中でアウトカム評価の概略と方法について学習会を開催することとなった.
このような活動評価の視点で,やどかりの里を矛盾無く捉えることができるようになれば,やどかりの里の活動の価値をより多くの人たちと共有することになるだろう.
また,やどかりの里の通所授産施設「食事サービスセンターエンジュ」のお弁当利用者への状態調査に,研究所として協力態勢を作り調査を進めてきた.調査結果は,報告書としてまとめられ学会等でも発表をしてきた.
調査終了後には,一定の成果を関係者と共有し合い(主客一体),共有した価値と実践を照らし合わせ(時空一体),活動を見直し,見通しをつけること(質量一体)が必要である.どのような調査も,研究の手段であり,研究の目的ではないことは言うまでもない.
従って,一応の成果を個々の具体的な課題として整理し,関係者の共通の課題としてさらに創り上げていくことが次の課題となっている.
また,この課題は単なるお弁当事業とか授産施設の活動の枠を超え,「支え合いの仕組みづくり」や「協同市場の形成」といった「暮らしに注目した地域づくり」への課題であることにも注目したい.
研究所としては,これら「地域におけるさまざまな活動を,住民と自治体がどのように連携して,地域をどのように創り上げていくか」に対し,継続的な学習を進め,課題を整理することにより,より多くの人たちとの協同が,地域の実践として位置づけられるよう取り組んでいきたい.
(事務局長補佐 宗野 政美)
<3月15日発行>
第3回やどかり研究所報告・交流集会の報告
2月19日に第3回やどかり研究所報告・交流集会がやどかり情報館で開催された.当日は80名を超える参加があり,丸1日に及ぶ長丁場のプログラムに熱心に参加していた.
まず,午前中は研究所の事業報告,5つの研究班の活動経過報告が行なわれた.報告を受けて,顧問の鈴木文熹氏が,「状態調査から導き出された5つの課題から学習が広がってきていることを重く受け止めている.やどかりの中に自分の生き方を社会の動きとの関係で客観化していくものの見方,考え方が定着していると思う」と感想を述べられた.
その後,研究所会員による5題の研究・実践報告があった.お弁当利用者への状態調査をもとにした報告,半年以上の準備をかけた人づくりセミナーを素材にした報告,雑誌「爽風」を丹念に読み込み,精神科ソーシャルワークの視座を探った報告,4年間の比企地域交流会の実践をまとめた報告,メンバーへの聞き取り調査を通して生活モデルの検証をした報告,何れも丁寧な取り組みで得られた研究の成果を報告された.
特別報告では,「障害者施策が大きく変動する中で大切にしていくこと」として藤井克徳氏(きょうされん常務理事)のお話をお聴きした.まず,人生での様々な出会いや矛盾が発達の栄養源であったとして,ご自身の歩んで来た道のりを話された.1970年代,藤井氏が東京都で養護学校の教員時代の話である.人数の枠があり,入学を希望する障害児を職員会議で選考するおかしさ.入学できても卒業後の行き場がない卒業式の重苦しさ.そのような矛盾と向き合うことが,地域の中の働く場づくりや駅のエレベータ設置要請などの運動に結びついていった過程を話してくださった.直面する矛盾に対して真正面から向き合う藤井氏の人柄が伝わってきた.
その運動のなかで培われた物事の見方,考え方を藤井さんは4つ挙げられた.
@ 動くことがつながること.
A 「8勝7敗」の論理.
B エネルギー不滅の法則.(形は変えても実践のエネルギーは受け継がれる)
C 見るではなく観ることの大切さ.
日々実践に携わる私たちに大きな示唆を与えるものであった.
後半は,「激動の今をどう読み解くか」として,競争原理で社会が動いていると押さえたうえで,グランドデザイン案を取り上げた.グランドデザイン案については光と陰があるとして,総合的に評価する姿勢がうかがえた.最後に,明日に向けて,運動を技と感覚の磨ぎ石としながら,5年10年という時間の区切りで状況を捉えつつ,愚直に取り組んでいくことの大切さを強調された.厳しい状況のなか,歩みを止めることなく運動を進めていく力強さを感じた話であった.
集会最後の総合討論では,「学習,研究活動の大切さを確認した」という声や,「ビジョンを明確にしても,プロセスでうまくいかない.非人間的な効率優先の道筋ではなく,人間的な道筋をたどるプランづくりが今後の課題ではないか」といった意見がでた.
全体を通して,経験の浅い若い職員が研究班での気づきを自分の言葉で伝える姿に,自らの体を通した学習の裾野が広がっていると感じた.また,それぞれの研究の切り口は違っても人間のいのちや暮らしが基盤にあり,重なる部分も見えた.人間を中心に据えた学習や研究が重層的に広がり,より確かなものになってきていることを実感した集会であった.
(やどかり研究所副代表 白石直己)
<1月15日発行>
問題の本質を見る目と闘い続ける姿勢
2004年11月20日,今年度3回目になるやどかりサロン「医療の中でこぼれ落ちるものを拾い続けて〜心理臨床家・精神医療現場40年の歩みから」が,やどかり情報館にて開催された.ゲストは東京足立病院の赤松晶子氏.心理臨床家であり,精神医療現場で40年以上働き続けている.
企画の発端は,2003年1月に行われたシンポジウム「日本の精神医療を振り返る−浜田晋が語るおもての話うらの話」(主催:NPO法人メンタルケア協議会)だった.質疑応答の時に,会場にいた赤松さんが発言し,精神医療の現状を伝え,現場の状況が後退しているのではないかと鋭く訴えかけた.そんな彼女にぜひ話を聞いてみたい,と参加していたやどかり出版の増田は考えた.それを受けて,精神医療の歴史を学習していた研究所自主学習班の温故知新班(通称)が企画を担当した.
サロン当日は,「医療の中でこぼれ落ちるものを拾い続けて〜結果として敗退の歴史でしかなかった」というレジュメにそって赤松氏の講演があり,その後の質疑応答と全体討論を含めると,約3時間に渡る話になった.参加者は普段よりも多く,サロンには37名,サロン後の赤松さんを囲んでの茶話会にも約15名ほどが集まった.赤松さんの話への関心の高さが伺われた.
講演は,精神医療の現場での出来事を軸に,精神医療に関わる制度や政策の歴史的背景,その時々の社会の状況に言及しながら進んだ.
赤松氏は,1961年に精神病院に入職したときに衝撃を受けた.社会から隔絶された空間がそこにはあったのだ.なぜ患者が無残な扱われ方をされるのか.患者の希望は抑えられ,プライバシーもなく,隔離・拘束の抑制的な強制治療が行われていた.非民主的なヒエラルキー構造の中で医療従事者は目の前の患者ではなく,医師の意に沿って行動することを求められた.そんな中で,病院から地域に飛び出して活動する人々に共感しながらも,病院に残された人たちはどうなるのかという思いを抱き,医療従事者の意識やあり方,病院の構造を変えようとして活動し続けた.患者と向き合い,自分自身も含めて医療従事者や病院での治療のあり方を問い続けた.
今,第3者評価導入の対応などに追われ,目の前の患者との関わりの中で学んだり,活動を作ることが軽視されている病院の状況に,赤松氏は危機感を持っている.レジュメの副題「結果として敗退の歴史でしかなかった」に表われている通り,忸怩たる思いを抱いている.
講演後の質疑応答では,たくさんの感想や意見が述べられた.経済中心の社会のあり方の中で患者が押し込められていく状況が作られていくこと,社会の中で精神病への偏見が作られていくことの指摘や,歴史と向き合い,物事の本質を見て闘い続けていくことの大切さが話題に出た.
目の前の人たちと向き合って活動を作っていくこと,おかしいと思ったことに対しておかしいと言い続ける気概.表面的に物事を捉えるのではなく,その背景や歴史をきちんと押さえて行動すること.小柄でおだやかな赤松氏の姿に多くを考えさせられ,また,パワーをもらった会であった.
(黒崎 夢)
<12月15日発行>
第3回
やどかり研究所 報告・交流集会
今年も残すところわずかとなりました.記録的な猛暑,度重なる台風の上陸,そして中越の大地震と,自然と人間の関係を考えさせられることの多い1年でした.年末を控えて,いまだ避難生活を送る方々の暮らしを思うと,焦燥感が募ります.
さて,昨年に引き続き「やどかり研究所報告・交流集会」を開催いたします.予定では,「第9回地域精神保健・福祉研究会」(精神障害の体験を持つ人の視点で,生活支援活動を見直すことをテーマにしている)を開催することになっておりましたが,開催に向けた実行委員会で数回の話し合いを行い,本研究会での取り組みは研究チームの中で継続的に検討を行い,研究が進んだ段階で発表し,皆様と議論できる機会を設けていくことにいたしました.
そこで,今年度も「やどかり研究所報告・交流集会」を開催し,会員の皆様に対して研究所の1年間の活動報告を行い,同時に研究所会員の研究成果や活動の報告の場にしていたくことになりました.ぜひこの場を会員の皆様にご活用いただければと思います.
また,特別報告ではきょうされんの藤井克徳常務理事をお迎えし,お話を伺うことにいたしました.障害者福祉の施策が大きく変わろうとしている中で,だからこそ大切にしていきたいことを藤井さんのお話を伺いながら,考えていきたいと思っております.
日 時 2005年2月19日(土) 9:00〜18:00
会 場 やどかり情報館2階ホール
参加費 2,000円(研究所会員は無料)
申込み 2月11日(金)までに所定の方法にて
ご案内ちらし(PDF:208KB)
<11月15日発行>
精神科医から自分の人生を取り戻そう!
第2回やどかりサロンで西澤起代氏がなげかけた問題
今年度第2回目となるやどかりサロンは,10月16日にやどかり情報館2階ホールで西澤起代氏を迎えて行われた.
西澤氏は2年前の日米精神保健福祉セミナーが同じやどかり情報館で開かれた時,通訳として大変お世話になったことを想起された方も多かったと思う.
今回の西澤氏のお話は,まず御自身のカナダ留学の動機から始まった.
人間に枠をはめることの多い日本における息苦しさから逃れるために,1人1人がユニークで1人1人が違うことに寛大なカナダに高校卒業後渡って,もう1度カナダの高校の最終学年をつとめ,その後トロント大学で精神分析,人類学,宗教学を学ばれた.
7年間のカナダに於ける勉学を終えて日本に帰られ,愛知県知多郡の精神障害者福祉施設「わっぱの会」で3年間の生活を体験されたが,西澤氏がその間ずっと持ち続けられた疑問は,
「精神障害者の医療とのつながり方で,医療が患者の「生きるちから」を奪っているのではないか!」
例えば,
「2週間に1回の診察は本当に必要なのか?」
「何故主治医の一言で患者の人生が決められるのか?」
「余りにも医者とのつながりが強く,何でも主治医に決めて貰うのはおかしいいのではないか?」
「日常のことはわかっていないのに主治医が何でも決めるのは何故か?」
また,
「ほとんどの患者の顔のうしろには医者がいる,足も病院に結び付けられているようだ!」
「すごい依存の関係がある,2週間に1回チェックされる人生,自由な動きを奪ってしまうような生活」
これらの疑問を持ち続けられた西澤氏は,今年6月に再びカナダに行かれ,バンクーバーのメンタル・ヘルス・サービスによる患者の医療福祉活動について知らされ,ソーシャル・ワーカーが中心となって,非常勤の医師(医療はほとんど無料)と地域精神保健士,作業療法士とレクリエーション・セラピストなどのメンタル・ヘルス・チームによるサービスについての報告を受けられた.
そして最後に,アドボカシ―・サービス(権利擁護事業)について説明された.
アドボケイト(権利擁護者)とは患者との対等な関係において,当事者が本当に願っていることを,その人の意を汲んで具体的な結果に結びつけるために働く者である.欧米ではアドボケイトという独立した地位が確立され,予算がついている.多くの場合,医療または福祉施設とは独立した機関が運営しているので中立性を保つことができる.以上の報告の後,聴衆の感想の発表や質疑応答が行われた.残された問題は日本におけるアドボカシ―の可能性である.
(辰村 泰治)
<10月15日発行>
精神医療史の学習から,私たちの活動への認識を新たに
温故知新学習班・活動報告とやどかりサロンへのお誘い
2002年5月に行われた総会後の学習会をきっかけに,やどかりの里での経験年数が比較的浅い人を中心とした学習班「活動の基盤を見つめ現状を捉える力をつける学習会(愛称:温故知新学習班)」がスタートした.ほぼ1か月に1回のペースで開かれてきた学習会もこの9月で第18回を迎えた.この間,様々なテーマを取り上げ,またゲストをお迎えしながら,やどかりの里のいわゆる「5つの課題」についての理解を深めて来ることができた.
やどかりサロンのお知らせ
テーマ 医療の中でこぼれ落ちるものを拾い続けて(仮題)
〜心理臨床家・精神医療現場40年の歩みから〜
ゲスト 赤松 晶子さん(東京足立病院社会福祉部)
日 時 2004年11月20日(土)
13:30〜16:00
場 所 やどかり情報館2階ホール
参加費 一般1,000円 研究所会員500円
長年精神科医療の現場で働き続けてきた心理臨床家の赤松晶子さんを講師にお迎えし,これまでのご自身の経験と,精神医療の過去・現在・未来を語っていただきます.「患者が見ることができない記録はつくりたくない」(精神看護,1-(5))「隔離拘束は誰のために?」(社会臨床雑誌,8-(2))など,70歳を越えられた今も,精神医療の現場で精力的に活動し,精神医療の体制や現場の状況に対してさまざまな発言,問題提起を続けられています.貴重なお話が伺える機会です.多くの人のご参加をお待ちしております.
最近取り上げているテーマで,毎回の議論が白熱しているのは,2004年2月から取り組んでいる「精神医療を考える」シリーズである.雑誌「ゆうゆう」(萌文社)にかつて掲載された「目で見る精神医療史」(遠山照彦)をテキストとして,輪番制でレポーターを決め,テキストの内容をかいつまんで説明するところから学習会は始まる.参加者は,絶えず自らの活動や自らの生活に引きつけて考え,議論を深める.こうした過程で,私たち学習会参加者が実感し,毎回驚かされてきたことは,歴史の中にある過去の出来事の深層は,現在へと確かに連続しているといった視点である.この国や私たち自身が無意識のうちにもっているかもしれない,差別や偏見,抑圧といった危険な感覚を,自分自身に問い直す契機となった.
しかし,精神医療の問題を正しく理解するためには,単に私たちの基盤である社会福祉の視点から精神医療を批判するだけでは偏りがある.そこで今回,研究所運営委員会での協議を経て,11月のやどかりサロンへ,東京足立病院社会福祉部の赤松晶子さんをお招きし,お話を伺うことになった.赤松さんは,今から40年近く前から東京足立病院に勤務され,常に患者の立場で精神医療への疑問や憤りを提起され続けている.
この貴重な機会に,たくさんの市民の皆さんのご参加をお誘いしたい.
(やどかり研究所運営委員・齋藤 征人)
<9月15日発行>
やどかりサロンのお知らせ
バンクーバー市におけるメンタルヘルス・サービス
コミュニティー・チームケアのしくみとアドボカシー事業の重要性
ゲスト 西澤 起代さん(ISH研究所,やどかり研究所会員)
日 時 10月16日 午後1時30分〜4時30分
場 所 やどかり情報館
バンクーバーでは,エリアごとに「メンタルヘルス・チーム」と呼ばれるセンターが配置され,地域で生活する精神障害者への医療と生活支援を提供している.この場を中心になって動かしているのは,コミュニティー・メンタルヘルス・ワーカーである.利用者1人に対して,ケアマネージャー,精神科医,レクリエーションセラピスト,作業療法士ら3・4人からなるチームが構成され,チームとして治療とリハビリにあたっている.精神科医はケアマネージャーの要請により必要時のみ診察にあたるパートタイム勤務である.この構造が,地域生活に送る利用者への医療の介入(または医療的視野に立った“支援”の過度な介入)を最低限に抑えることを可能にし,それが利用者が回復していく力を取り戻すことを促進している.
私はバンクーバー市内に8か所あるメンタルヘルス・チームのうち,2か所を訪問し,チームケアが確立されていった歴史的および思想的背景,チームケアのしくみ,プログラム内容,チームと近隣の関連施設との連携,アドボカシー(権利擁護)の重要性等について話を聞いた.やどかりサロンでは,前半をこの訪問から学んだことを報告し,後半を日本における医者と患者,医療と福祉の関係性やその問題点など,意見交換をしながら当事者本人が納得する治療法,そして生活スタイルを選ぶこと,それを支援することについて,共に考えたいと思う.
(西澤 起代)
<8月15日発行>
今後の社会福祉,精神保健福祉の向上のために
坪上資料室(仮称)の整備が進む
この夏,やどかり研究所では懸案であった坪上宏(前・やどかり研究所所長)資料室(仮称)の整備が行われる.坪上先生は,2000(平成12)年に亡くなられ,その際に先生の蔵書をやどかり研究所に寄贈したいというお話を夫人の坪上栄子さんからいただいていた.その後栄子夫人の体調のことなどあり,時間が経過していたが,今年の6月にダンボールで39箱の蔵書が届いた.やどかり情報館の会議室の一室に坪上先生の写真を飾ってあるが,その部屋の壁面に書棚を用意し,研究所の会員や関心をお持ちの方に閲覧していただけるように整備する準備をしている.
坪上先生は,日本の精神医学ソーシャルワーカーの草分けで,1962年に国立精神衛生研究所(現・国立精神保健研究所)社会精神衛生部研究員として勤務され,1973年には,初めてやどかりの里を訪問して下さっている.以来,やどかりの里の活動を理解し,支え,導いてくださった方である.常に存続が危ぶまれていたやどかりの里が,その活動の意味を考える研修会などへの関わりを始め,やどかりの里の活動の意味や方向性をともに考え,支え続けていただいた.
1976年に日本福祉大学に赴任されてからは,教え子をやどかりの里に紹介され,卒業生たちが,やどかりの里の活動を担ってきている.また,やどかりの里にとどまらず,全国に坪上先生を慕う人々がいる.
今回,蔵書の整理にあたり,何人かのやどかり研究所会員にお声をかけたら,愛知在住の長坂謙吉さん,横浜在住の高野静子さんが,お手伝いくださることになり,8月上旬,蔵書の整理を行うことになった.坪上資料室(仮称)の整理が整った段階で,研究所の会員の皆様や,坪上先生に関わりのあった方々にお声をかけ,資料室のお披露目を行い,これからの社会福祉,精神保健福祉の実践・研修・研究の発展に先生の蔵書を役立てていただけるような態勢を整えていきたい.
(やどかり研究所事務局長・増田一世)
<7月15日発行>
研究所サロン報告
誰もが「私の願い」や「夢」を語れる社会に
6月12日(土),今年度第1回目となる研究所サロンが開催された.ゲストには,さいたま市にある鴻沼福祉会より,そめや共同作業所(身体障害者通所授産施設)施設長の斉藤なを子さんをお招きした.
鴻沼福祉会は,1981年に養護学校の卒業生の働く場をつくる活動を開始し,現在では,社会福祉法人として,身体,知的,精神の各種障害者授産施設の運営や,生活や就労に関わる地域支援をさいたま市中央区を拠点とし活動展開している.
斉藤さんは,鴻沼福祉会の常務理事でもあり,きょうされんの常任理事や全国社会就労センターの専門委員といった全国組織の要職にもついておられる.
今回のサロンでは,斉藤さんから,昨今の障害者施策の変革とその動きについて最新の情報を提供していただき,また,「その動きをどう読み解くのか」を現場の現状を通して話題提供していただいた.
まず,障害者の就労の現場について,現在鴻沼福祉会で行われている「さいたまワークス」の取り組みが紹介された.これは法人内の4つの授産施設の壁を越えて,さいたまコープとの共同事業で,障害を持った方が最低5万円の収入を得るグループをつくることを目標にした取り組みである.高額の賃金や一般社会の中での就労の形態が,施設では得られない体験の世界を広げ,新たな生活の糧につながっていることから,現状の施設における就労のあり方を,改めて考えるきっかけとなっていると語られた.
障害者の就労施策については,6月4日に経済財政諮問会議がまとめた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004(骨太方針2004)」に触れ,障害者の就労施策の充実強化が上げられたことは一定評価しつつ,このことが一気に政治課題となった背景のひとつに,小規模作業所問題があるとした.補助金削減のねらいもあるが,機能や水準が問われる施策の流れはむしろチャンスであると話された.
次に障害者施策と介護保険との統合について触れ,そもそもの介護の概念には高齢者や障害者という区別はなく,具体的な介護要求にとどまらない文化的な要求を,どのように実現していくか.これらを含んだ社会サービス法というもっと大きな概念のもとに施策がなりたつべきと語られた.そして,施設入所して亡くなられた祖母の介護体験を交えて,介護の社会化の流れにはきれいごとではすまない問題が山積みにあり,その事実を軽視してはならないとした.
これらの障害者施策の変革とその動きに対して,人間として当たり前の権利や要求を,傍観者や,評論家でもなく,一点突破でもなく,玉砕でもなく,私たちが本当のレジスタンスをするという意識で,責任ある具体案をつくり,国民理解を求めていく.人間を中心とした考え方で,私たちの百年の計を本流にしていきたいと話された.
最後に,ある難病の女性の方が作られた作文を朗読し,お話を終えられた.「夢は見るためのものではない.かなえるためのものでもある.生きるためのものでもある.〜(略)」
斉藤さんは,先の施設介護のエピソードの中で,「祖母がいた環境は,施設で過ごしやすくいるためには,自分の願いや思いを表に出さないことであった」と話されていた.一方で,この難病の女性の方の「願いや思いで夢を描き,生きる世界を広げていこう」とするメッセージとのギャップは,今の社会福祉の「現場」に,「人間の尊厳」の「取り扱い」を改めて問い直す機会となった.私たちのまわりに,「私の願い」や「私の夢」を語る人が,どれだけ多くいるのかが,この社会の豊かさをはかる1つの指標になるのだろう.
(研究所事務局 宗野 政美)
<6月15日発行>
やどかりの里の意味を考える学習会
やどかりの里の運動に学ぶ
5月29日(土),やどかり研究所主催の学習会が開かれた.4回目の今回は,南信州地域問題研究所理事,またやどかり研究所顧問でもある鈴木文熹先生をお招きして,「やどかりの里の運動に学ぶ」と題して行われた.
鈴木文熹先生は,農業経済学を長年勉強され,その後地域づくりに向けた調査,研究を進めてこられた.やどかりの里には,メンバー,職員の状態調査,通所授産施設「食事サービスセンターエンジュ」のお弁当利用者の状態調査にもご協力いただいた.今回の学習会では,鈴木先生の目に映ったやどかりの里を語っていただき,やどかりの里が何を大切にして活動を進めていくのかを参加者1人1人が考える機会として開催された.
当日,鈴木先生は35枚にも及ぶレジュメを用意され,大きく3つに分けて話された.最初に,やどかりの里のメンバーと職員の状態調査で出会ったものとして,2年間にわたって取り組んだやどかりの里の状態調査(詳しくは『響き合う街で』18号)から,鈴木先生がどのようにやどかりの里を捉えているかについて話された.メンバーは統合失調症を診断され,今まで培ってきたもの全てを失い,やどかりの里と出会って死からの生き直しをしていく.それは競争主義からの解放で,競争主義とは異なる価値観の芽生えであること.そして職員は,メンバーに支えられ,メンバーとも職員とも相互に対等性を獲得し,豊かな関係をつくっていると語られた.
そして次に,競争社会とは異なるもうひとつの社会が普遍化できる条件が,今どのように形成されつつあるのかといった点について,まず,1985年以降の日本経済の変遷を中心にしながら構造改革がどのように進められてきたのか,特に雇用形態や労働政策の変化,教育政策の変化に焦点をあてて話された.雇用形態については,日本型雇用が崩され,世界各国に生産拠点をもつ多国籍企業型経済構造に変えられようとしていること,そのための労働法制の改正がどう進められてきたのか,また,教育改革についてもどのような改正が行われているのか,東京都の教育改革を例にしながら述べられた.そして,こうした全面的な構造改革の実施によって地域の中でどのような矛盾が噴出しているのか,そしてその矛盾を乗り越えるために,どのような運動が展開されているのか,不登校の子供の親の会の取り組みや,新潟や佐渡の状態調査から生まれた取り組みなどが紹介され,人間と人間,人間と自然の新たな価値観づくりが静かに広がりつつあることが語られた.
最後に,やどかりの里の活動がどのように発展しているのかについて,1987年度以降に注目して文献を中心に整理し,いくつかの大切な要素について話された.そして,昨年度行った「食事サービスセンターエンジュ」の状態調査から,住民とエンジュの人々との対等性が生まれていること,エンジュがやどかりの里の資源から地域住民の資源へとなっていること,それは公共性の確認でもあること,そして,これらは競争主義ではない価値を住民と相互に普遍化していることであると,学習会を締め括った.
学習会を終え,参加者の多くが今の日本の社会構造がどう変革されようとしているのか,そしてそのことを踏まえ,自らがどう行動していくのかが問われていることを感じた時間となったのではないだろうか.
(研究所代表 三石麻友美)
<5月15日発行>
研究所の今年度事業のお知らせ
ともに考え,ともに創り合う研究所活動
今年度の第1回目の研究所の運営委員会を4月17日に開催し,事業計画の具体的な検討を行いました.研究所に関係する事業で,日程等の決定したものについてご報告します.やどかり研究所の会員,やどかりの里の会員の方々の積極的な参加をお願いいたします.
<学習会・サロン・研究会の予定>
◎ やどかりの里について考える学習会
「やどかりの里の運動に学ぶ」
講 師 鈴木文熹先生(南信州地域問題研究所・やどかり研究所顧問)
日 時 5月29日 午後1時30分〜
会 場 やどかり情報館2階ホール
◎ 第1回 やどかり研究所サロン
「障害者の生きるということを基盤に据えた障害者施策を考える(仮題)」
講 師 齋藤なを子さん(鴻沼福祉会常務理事)
日 時 6月12日(土) 午前9時30分〜12時
(時間が変更になっています.お気をつけください)
会 場 やどかり情報館2階ホール
この1年,障害者福祉施策がどのように改変されていくのか,予断を許さない状況があります.今回のサロンでは,障害者福祉施策改変の動きと,その動きをどのように読み解いていくのかを共通の理解にしていきたいと考えています.そしてその中で障害者自身が,あるいはともに活動を進める従事者が,何を大切に自らの活動を切り拓いていくのかということを,考える機会にしたいと思っています.
◎ 第2回やどかり研究所サロン
「精神医療の見直しが進む中で,精神医療はどう変わるのか」
講 師 未定
日 程 11月13日(土)あるいは20日(土)
会 場 やどかり情報館2階ホール
障害者福祉施策の改変と同時に精神医療制度も見直しが進んでいます.精神医療の現場で変わりつつあるもの,変わらないもの,現場の実践から考えていきたいと思っています.
講師は現在調整中です.
◎ 第9回地域精神保健・福祉研究会
テーマ 未定(8月から検討を再開予定)
日 程 2005年2月19日〜20日
◎ 第3回やどかり研究所サロン
「現実発の社会福祉理論構築をめざして(仮題)」
講 師 齋藤征人さん(高知女子大学・やどかり研究所運営委員)
(研究所事務局長 増田一世)
やどかり出版 新サイト誕生!
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<4月15日発行>
「第2回やどかり研究所報告・交流集会」(報告)
「やどかりの里の活動の意味を考える学習会」(ご案内)
<やどかり研究所報告・交流集会>
やどかり研究所報告・交流集会を3月13日(土),やどかり情報館で開催した.隔年開催なので,今回で2回目となった.
午前中に,研究所事務局から平成14年度と15年度の事業・会計報告を行い,その後,研究所の5つの研究班それぞれから,これまでの活動経過報告が行われた.さらに,今年度開催した第8回地域精神保健福祉研究会と,昨年10月からの厚生労働省「精神障害者の地域生活支援の在り方検討会」への取り組みが報告された.
午後からは,演題募集に対して応募のあった研究所会員からの研究・実践発表と講師をお招きしての特別報告が行われた.研究・実践発表では,4つの演題が発表され,発表後,参加者が発表者のいるブースに分かれて自由討論を行った.
特別報告では,国連の障害者の権利条約制定に向けた第2回国連特別委員会に政府代表団顧問として参加された東俊裕先生をお招きし,「障害者の権利条約」の意義と役割についてお話頂いた.参加者からは,福祉だけでは障害者は救われないという言葉や,人権は,国家と人の関係であるという言葉が大変印象に残ったなどの感想が述べられた.
その後の研究所運営委員会では,午前,午後ともに内容が盛りだくさんで,それぞれに時間が足りなかったことや,社会の動きを意識してそれぞれが学習を積み重ねてきたが,特別報告では,もっと視野の広い人間の尊厳を再確認させられる貴重な機会であった等の感想が述べられた.また,今後の課題としては,やどかりの里の活動を人権という視点であらためて整理していくこと等があげられた.
<やどかりの里の活動の意味を考える学習会>
やどかりの里の定期総会のあとに学習会を開催するようになって4年目.今回は鈴木文熹先生(南信州地域問題研究所・やどかり研究所顧問)をお招きし,お話をお聞きすることになった.
鈴木先生は,1999年,2000年のやどかりの里の30周年という大きな節目に,やどかりの里の職員と一緒に調査団を結成し,メンバーと職員の状態調査を実施.そしてそこから,今後30年間をかけて取り組んでいく5つの課題を調査団とともに導き出した.
2004年2月には,通所授産施設「食事サービスセンターエンジュ」のお弁当利用者の状態調査を実施している.
こうした取り組みを通して,鈴木先生はやどかりの里の活動に深い関心を持って下さり,やどかりの里のさまざまな文献などにも目を通しておられ,やどかりの里の活動を見守って下さっておられる.
今回の学習会では,鈴木先生の目に映ったやどかりの里について率直に語っていただけるので,この学習会を通して,やどかりの里がどのような方向に向かって,何を大切にしていくのか,参加者とともに考えていければと思う.
テーマ「やどかりの里の運動に学ぶ」
講 師 鈴木文熹先生
日 時 2004年5月29日(土)
13:30〜16:00
会 場 やどかり情報館2階ホール
参加費 無 料
(研究所事務局 宗野政美)
<3月15日発行>
市民社会の時代
「つくりっこの家」の地域活動に触れて
「灯台もと暗し」という諺がある.私の場合,つくりっこの家の地域活動が始まった頃,その近くに住んでいた.ただ当時は東京大学に在職しており,国際保健に関心が向いていたから「東大もと暗し?」で過ごしてしまった.昨年暮れ,やどかり出版の増田さんが松本で紹介してくれたので,先般のやどかりサロンに出向くことを思いついた.
やどかり出版の新刊書に目を通したら,つくりっこの家のホームページを覗いてみたくなり,急いで読んでみた.そしたら,これは一味違う活動だと直ぐに分かった.市民中心で障害問題に立ち向かい,最初の14年間は補助金に頼らず,自主財源を生み出しながら,25年間も着実な地域活動を展開している.会員全員をメンバーと呼ぶなど,やどかりの里の歴史と現状と一味ちがうところがある.
(なお,つくりっこの家のホームページは http://www2.ttcn.ne.jp/~tukurikko/なのでご参照を)
そこで,練馬区に住むやどかり出版の西村さんにお願いし,サロン前日に現地見学の希望を伝えて貰った.現地では朝のミーティングから参加し,そこでの討論展開の面白さをまず味わった.簡単に言うと,つくりっこの家クラブハウスの職員である明星さん(今回のサロンのゲスト)は,メンバーと討論をじっくりしていることに尽きる.その後,スタッフと意見交換してから,明星さんの案内で,クラブハウスの外の各作業所を回りながら,多様に会話が進んだので,その印象は素直に受け入れることができた.
こうした事前工作があったから,やどかりサロン当日のビデオの事前上映は前日の現場体験の整理に役立った.当日の集会には35人ほど参加し,増田さんのインタビューで前半の話題提供と討論があり,後半は参加者からとの質疑応答に当てられ,最後はティータイムで参加者がつくりっこの人たちと自由に歓談する一時でもあった.
この集会のハイライトは,前半のインタビューにあったから,そこに焦点を当ててみよう.もちろん,その中核は明星さんが増田さんの質問に手際よく応答する場面であったが,そこにメンバー2人とスタッフ2人のコメントも自然に組み合わせたので,多くの参加者は充実感を味わえたことを後のコメントの中から確認できた.ただ一つ欲をいえば,練馬区の関連活動との関係,例えば新設の生活支援センターの運営参加など触れてほしかった.
素晴らしい地域活動の話に接すると,多くの人はその場では感動する.しかし,それが長続きしにくいことも一方では事実であり,例えば明星さんが<当たり前>として語られたことの背景にある「隠し味」を感知し,普遍化して別の場面で自分から他人に確実に説明できるノウハウが必要だと私は痛感した.
幸い,今年も夏期にやどかり人づくりセミナーが開かれることになったから,上記の問題意識を普遍化し,自律的に問題改善に生かせるような企画を具体化したいと思っている.有り難いことに,今年は強力な助っ人が参加してくれるから,先般のやどかりサロンで感じた問題意識を開花させたいと願っている.
(やどかり研究所顧問 丸地 信弘)
<2月15日発行>
新障害者プランを見て
いわゆる「障害者プラン〜ノーマライゼーション7ヵ年戦略〜:1996〜2002年」の期限が終わり,それを引き継ぐ形で新しい「障害者基本計画:2003〜2012年」,「重点施策実施5か年計画:2003〜2007年」が2002年12月に策定され,今年度から始まった.今年度からの支援費制度導入の渦の中,新障害者プランへアンテナを張れなかったことを恥ずかしく思える.昨年筆者は,インターネット上で両者の情報を取りこんだ.それらを見て考えつくまま述べさせてもらう.
「重点施策」の中で,精神障害者施策の充実に,「条件が整えば退院可能とされる約7万2千人の入院患者について10年のうちに退院・社会復帰を目指す」とある.なぜ早急でないのか.新薬の開発が進んでいるし,またストレス社会と言われる現代において,精神疾患を罹患する人が増加することも予想される.10年後では,もしかすると社会的入院患者の数が7万人以上のままかもしれない.早急な退院推進方策を講ずべきである.
その受け皿として考えられている住居関係の社会資源については,在宅サービスにグループホームを約1万2千人分整備する,福祉ホームを4千人分整備するとある.また施設サービスに生活訓練施設を約6.7千人分整備するとある.総じて少ないようだ.
不審に思った点は,福祉ホームが在宅サービスに入っていることである.精神障害者保健福祉政策の概要では社会復帰施設対策に福祉ホームが入っており,地域対策にグループホームが入っている.以前,両者の違いを東京で施設等運営されている方に聞いたところ,明確に福祉ホームは施設であり,グループホームは在宅であると答えてもらった.うがった考えをすれば,福祉ホームの空き,及び地域での暮らしの困難さから福祉ホームの長期利用を可能にするために利用期限を引き延ばし,それがために福祉ホームが在宅サービスに混入されたのではなかろうか.
また,福祉ホームの利用者数が低く設定されている点も気になる.生活訓練施設の利用者数ももっと増えるのではないだろうか.当事者の本当に住みやすい場所はどこであるかという点を顧みたい.脱施設化という言葉はあるが,中間施設ではなく,グループホームなどの充実,地域生活支援活動の充実を希望する.もう少し付け加えると,支援下宿などの新しい概念の社会資源も考慮すべきである.できるだけ一般の地域で暮らすのがベターと考える.そのためのケアを公的機関で補うべきだ.「医療・福祉研究」第13号の拙稿の中で,サンフランシスコ精神保健システムでケースマネージャーが調整役となって機能すると述べたことがある.その考えを日本に導入すべきではなかろうか.現在,何かしらの社会資源を利用している当事者は,そこでの職員によるケアに恵まれるとも言えるが,そうでない人には適切なケアを受けることが難しい.
(やどかり研究所運営委員 道見 藤治)
<1月15日発行>
やどかりサロンと第2回やどかり研究所交流・報告集会のご案内
やどかり研究所の主催する催し物について,ご案内いたします.
<やどかりサロン>
ゲスト 明星マサ氏と「つくりっこの家」のメンバー
日 時 2004年1月17日(土) 13時30分〜15時30分 お話と討論
15時30分〜16時30分 ティータイム
*13時00分から「つくりっこの家」の活動紹介のビデオを放映します.お時間のある方はぜひご覧下さい.
会 場 やどかり情報館 2階
埼玉県さいたま市見沼区染谷1177−4
電話 048-680-1891〜1893
参加費 1,000円(研究所会員は500円)
「つくりっこの家」のさまざまな活動は,東京の練馬区大泉学園町の住宅街に点在しています.パンフレットには「つくりっこの家とは,『障害』の有無・年齢をこえて,人と人が出会いふれあう場です.そして,それぞれがもち味を生かしあい,わかちあい,支えあう関係をつくっていこうとしています」とあります.
25年前,だれでもが気楽に出会える場を作りたいと願った1人の主婦が,自宅の1室を開放したことから始まりました.つくりっこの家にはボランティアはいません.全員が「つくりっこの家」のメンバーなのです.常に前向き指向,それが「つくりっこの家」流のマジックを生み出しています.「わけるとふえる」のです.つくりっこの家は街の中に小さな拠点を作り出しています.リサイクルショップあり,野菜などの販売店あり,便利屋さんあり,定食屋さんありと,私の暮らす街にこんな資源があったらと思うものが,点在しています.
今回は,障害の有無に関わらず,ともに創り合う「つくりっこの家」の活動が,どのような思いをもとに形成されてきたのか,大切にしているものは何なのか,じっくりうかがう機会にしたいと考えています.今回お招きするのは,つくりっこの家の運営委員の明星さん,活動の言い出しっぺでもあります.そして,ともに活動するメンバーの方もおいでいただく予定になっています.つくりっこの家のエネルギーを分けていただきましょう.
* つくりっこの家の25周年を記念する本も出版されました.『わけるとふえる つくりっこの家の25年』つくりっこの家運営委員会編,やどかり出版,2003年11月.本体価格2,500円+消費税 送料が実費かかります.
<第2回やどかり研究所交流・報告集会>
日 時 2002年3月13日 交流報告集会 9時30分〜18時00分
懇親会 18時15分〜19時45分
会 場 やどかり情報館 2階
埼玉県さいたま市見沼区染谷1177−4
電話 048-680-1891〜1893
プログラム(予定)
09:00 受付開始
09:30〜10:00 2002年度,2003年度やどかり研究所事業報告
10:00〜12:00 やどかり研究所研究班活動経過報告と討論
12:00〜13:00 昼 食
13:00〜14:30 会員による研究・実践報告と討論
14:30〜14:45 休 憩
14:45〜16:30 特別報告「障害者の権利条約について」(仮題)
東 俊裕氏(第2回国連特別委員会政府代表団顧問,
DPI日本会議常任委員,弁護士)
16:30〜17:00 自由質疑(関心をもたれた発表者のコーナーで自由に
話し合ってください)
17:00〜18:00 総合討論(1日を通して感じたこと,考えたことを踏まえて,
総合的に議論していきたいと思います)
18:15〜19:45 懇親会 (語り尽くせなかったことを,存分にお話ください)
参加費 研究所会員は無料です.会員外は参加費2,000円
懇親会費 2,500円
2001年4月からやどかり研究所は装いを新たにし,3人の共同代表制(当事者,研究者,実践家)のもと,運営委員会での話し合いを基盤に活動を進めてまいりました.本年度も研究所の運営委員,やどかりの里の職員,メンバーを中心に研究班が作られ,定期的な集まりを持ちながら活動し,その成果の一部を各種学会等で発表もしてまいりました.また,やどかりの里の通所授産施設「食事サービスセンターエンジュ」のお弁当利用者への調査活動に,研究所として協力態勢を作って調査を進めつつあることも,今年度の特徴として挙げられると思います.
研究所が定例の事業として計画していることとして,地域精神保健・福祉研究会と今回お知らせする「やどかり研究所交流・報告集会」があります.この2つを隔年に開催することを予定しています.前回は2002年3月13日に開催しており,今回で2回目の開催となります.この会の趣旨は,研究所の会員の皆様へ,研究所の事業報告を行うことと,日頃交流する機会の少ない研究所の会員の方々,あるいは研究所の活動に関心を持って下さっている方々の日頃の研究や活動の成果の発表の機会を設けるとともに,お互いの交流を促進し,その中で,それぞれの研究課題や活動の課題を話し合ったり,確かめ合う機会になればと考えています.
今回,特別報告には国連の「障害者の権利条約」の採択に向けて,第2回国連特別委員会政府代表団顧問として活躍され,DPI日本会議常任委員でおられる東俊裕氏をお招きし,「障害者の権利条約」(仮題)についてお話していただくことにいたしました.
2003年8月に東京の霞ヶ関で開催された「障害者の権利条約促進セミナー国際的な連携とわが国の役割をめぐって」に参加したやどかり研究所の運営委員から,「大変重要な取り組みが国際的に展開され,国内でも当事者が参加する中で取り組まれている.こうした世界の動きをもっと学習する必要がある」と報告されました.今回,運営委員会では,このテーマを特別報告に取り上げたいと考え,セミナーのシンポジストで,熊本で弁護士として活躍されている東さんにぜひお出でいただきたいとお願い申し上げたところ,快くお引き受けくだいました.
改めて,年明けにはご案内を作成し,お手元にお届けするつもりですが,ぜひご参加ください.
(研究所事務局 宗野 政美)
<12月15日発行>
通所授産施設「エンジュ」のお弁当利用者の状態調査に向けて
競争市場とは異なる協同の市場を
かつて劇団民芸の名優滝沢修氏は,舞台に上がるときに罠を仕掛け,自分で仕掛けた罠に掛かることによって緊張度を高めると言った.このこととは少し違うが,調査をするには仮説を立てることが必要のように思われる.だが,大抵の場合,調査が進むにしたがって,仮説は崩れる.勝手に立てた仮説とはいえ,それが崩れることは,調査をする者にとっては,予測が壊れるわけだから苦しい立場に追い込まれる.逆に言えば,それだけ真剣に事実を客観化することになり,普遍性のある調査になる.
エンジュで弁当利用者の状態調査を行うことになり,私も参加を呼びかけられた.早速立てた仮説は,弁当を作る人と利用する人との間に,協同が形成されていることを前提にしたアレコレのことである.だが早くも私の高慢ちきな鼻は圧し折られた.実は,利用者との話し合いの柱立てを考える準備作業として,10月18日,弁当を配達するエンジュの人の後に付いて,配る人と利用者との対応を伺った.まず驚いたのは,前日配った空弁当箱が置いてある場所を,配る人が実に的確に知っていることだった.しかも,ときには空弁当箱の中に代金さえ入っている.私の立てた仮説には,こうしたものは全くなかった.
私は,どう仮説を立ててよいか困惑した.と同時に,弁当を作り配る人と利用する人との間には,確実に協同が形成されていることを確認することができた.
このところ競争市場の片隅に,協同市場形成の芽が芽吹きはじめていることに,しばしば出会うようになった.私がいま住んでいる長野県高森町に”おやき”という伝統食を作り,販売している「牛牧おやきの会」という30人ほどのグループが,10年ほど前に誕生した.平均年齢65歳前後の農村女性の集まりである.10年の間には,何回かの困難に出会ったが,仲間同士の話し合いによって,乗り越えてきた.過日,リーダーの方に久し振りにお会いし,「何がこれほどまで強くおやきの会を支えてきたのか」を尋ねたところ「おカネが目当てだったら,遠の昔に潰れている」という言葉が返ってきた.老後を生き生き暮せることこそ支えであり,協同の核心なのである.
おやきの会の人びとを支えているのは,競争主義とは異なる,もうひとつの価値観のように思われるが,実は,その価値観こそやどかりの里が30年の歴史をかけて創り出してきたものである.精神障害の業苦のなかから,人間とは何かを捉え直したことによって得た価値観である.したがって,かつては世間から差別され,家族からさえも疎まれてきた人びとが,死を見つめながら体得した価値観のように思われるが,高度成長期の企業社会では,競争主義が広汎な人々の価値観となり競争社会を形成した.この時期,この競争社会から排除されたのが不登校児や高齢者である.さらにいま「構造改革」のもとで排除される階層は飛躍的に広がり,その結果,競争主義に対抗する新たな価値観が広がりはじめ,この新たな価値観を土台にした協同市場が広がってきているように思える.
エンジュの弁当を利用している方の状態調査は,以上のような時代の流れを検証する調査でもあり,また,やどかりの里が築いてきた価値観の普遍化を確認する調査でもある.多くの人たちとこのことを共有したいものである.
(やどかり研究所顧問 鈴木 文熹)
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