-TOPICS-
  


2006(平成18)年度 1面 記事

機関紙「やどかり」4月号



(2006.04.15発行)


2006年度活動方針(案)
学習と運動,連携と地域貢献,新たな創造と発展を目指して

 今年度は障害者自立支援法(以下「法」)施行の年だ.福祉サービスの利用者に1割の利用料が発生し(やどかりの里ではグループホームとショートステイの利用料負担が始まる),精神科への通院医療費の自己負担が倍額(現在の5%から10%の負担)になる.

 やどかりの里は,作業所の国庫補助金(2005年度は1か所89万円)の廃止,社会復帰施設の補助金5%カットという状況に直面している.

 私たちはこの間,この「法」について応益負担の問題と影響の大きさを訴え,応益負担導入に反対し,「法」の慎重審議を訴えてきた.「法」施行により,これらの運動は重要性を増すことになる.「法」施行後表出するであろう「法」による生活や活動への影響を捕捉し,市内,県内,全国的なネットワークで,問題の改善や解決に向けた運動を重層的に進める.

 今年度10月から地域生活支援センター,グループホームは事業の切り替えが迫られている.新たに求められる事業を加え,現在の機能を担保するために研究・検討を重ね,さいたま市との協議を行っていく.

 さいたま市では各区ごとの相談支援体制の充実を障害者計画の重点課題としており,やどかりの里でも,各生活支援センターのこれまでの実績を生かしつつ,市内の生活支援センターとの連携を図りつつ,3障害の相談支援を担うための力量形成を行う.

 また,2005年2月に実施した家族への状態調査で課題として明らかになってきた家族への支援を充実させる.
 こうした前提に基づき,やどかりの里の5つの課題に沿った活動方針を立てる.

1.学習を進めていく課題への取り組み
 障害のある人への不利益を最小限に食い止め,やどかりの里の今後の活動のあり方を検討し,支援の水準低下を招かないために,激しく動く情勢を的確に読み取り,「法」についての情報収集・学習を継続的に行う.さらに,障害福祉分野を中心に,政治・経済の動向にも関心を持ち,自治体のあり方等についても学習を重ねる.


機関紙「やどかり」5月号
(2006.05.15発行)


2006年4月障害者自立支援法施行
やどかりの里の共通のビジョンを描くために 緊急出版とセミナーの開催

 障害者自立支援法は施行1月もたたないうちに,さまざまな問題を投げかけている.
 精神障害分野では,グループホームやホームヘルプサービスを受ける際に,1割の利用料の徴収が始まった.やどかりの里でも数人の人が該当することになった.グループホーム入居者は,さいたま市からの説明を受け,手続きを行った.今までと何も変わらないのに,利用料が必要になったのだ.

 もっと大きな変化は,知的障害,身体障害の支援費による施設だ.授産施設や入所施設でも利用料が必要になり,これまで通所施設の食費や入所施設の食費や水光熱費は支援費で賄われていたので,実費負担はほとんどなかったが,利用料に加えて実費負担まで始まった.利用料負担が大きいことを主な理由にして,施設を退所する動きが出始めている.関係者によれば,5月の連休明けに各自に請求書が届くと,その実際の数字を見て,退所者がさらに増えるのではないかということだ.

 また,毎日通っていた人が通所日を減らす,給食を食べていた人がお弁当を持参するようになる,といったいわゆる利用抑制も始まっているようだ.これは対岸の火事ではない.やどかりの里のメンバーも,自分の通っているところがどうなっていくのか,補助金が減って,職員が今までどおり働けるのか,利用料を払ってまで,働きに行くのか,不安の声が上がっている.

 精神障害の社会復帰施設には,5年間の移行措置があるが,いずれは新しい事業に移行しなくてはならない.地域生活支援センターは,10月以降は新しい事業に切り替わる.大きく変動する年になることは間違いない.
 「応益負担」は,これまでのメンバーと職員の関係性を変質させ,サービス利用者と提供者に分けていく.この分けられていく仕組みに自覚を持って対峙することだ.これまで大切に培ってきた協働の活動づくりを確認しながら活動を進める自覚が大切だ.

 情報共有と学習,この積み重ねを丹念に行い,私たちの進む方向性を導き出していかなくてはならない.そのために,やどかり出版では障害者自立支援法をめぐる3冊の緊急出版を準備中だ.5月27日の定期総会で,その内の1冊,ないしは2冊を出版する予定で,連休を返上し,準備を進めている.

 やどかりの里や障害福祉に関係する多くの人にこの緊急出版を読んでいただき,ともに考え,この難局を乗り切る知恵を出し合うきっかけにしていきたいと考えている.
 また,7月には障害者自立支援法と介護保険法を切り口にした第8回やどかりの里・人づくりセミナーを準備中だ.学習すること,話し合うこと,共通のビジョンを描くこと,近視眼的にならずに,展望を描き,それに向けた活動計画を立てていく必要がある.一方で,法や制度の不備を改善していくための政策提言に向けた準備も必要だ.

 「3障害がいっしょになってよかった」と実感できるように活動を進めていかなくてはならない.


機関紙「やどかり」6月号
(2006.06.15発行)


第35回通常総会開催
障害者福祉の大転換の時代に
これからの活動をどう切り拓くのか


 5月27日(土)やどかり情報館で第35回通常総会は開催された.土橋敏孝理事長は「障害者自立支援法(以下自立支援法)による影響は大きく,厳しい現状の中の総会となった.“この国に生まれたる不幸”と精神障害者は言われてきたが,幸せを得られるような生活ができるよう取り組んでいきたいと思う」と開会の挨拶を述べた.

 総会には71名が出席し,委任状提出者が201名,会員総数は351名であるので,総会は定足数を満たした.そして辰村泰治理事が議長に推薦され議事が始まった.

第1号議案:平成17年度事業報告及び決算報告承認
 まず,増田常務理事より“所報”をもとにこの1年間の活動総括が行われた.35年記念祝賀会を開催し,やどかりの里の活動理念を多くの仲間と共有できた.2005年は,障害者自立支援法が成立し,また創設に深く関わった理事のお2人を亡くすなど印象的な出来事のあった1年であった.続いて法人事務局,生活支援活動,事業関係とそれぞれ報告がなされ,決算の審議に入った.まごころが小規模通所授産になったが,全体的には厳しい局面であること,中川の社会復帰施設の長期借入金残額750万円は繰上げ返済が済んだことなどが報告された.そして第1号議案は承認された.

第2号議案:平成18年度事業計画及び予算案審議
 今回17ページに及ぶ資料が追加されたのは,自立支援法により今後の事業が大きく転換することを示唆している.機関誌4月号で18年度の組織図が示されたが,その後の検討の結果,生活支援活動に“(仮称)自立生活支援プロジェクト”が加わった.地域生活支援センターの移行や新事業の立ち上げ,移転など,多岐にわたった報告がなされた.
 続く予算案の審議では大変厳しい状況がまず報告された.社会復帰施設の補助金5%減,小規模作業所の国庫補助金一か所89万円の減,グループホームは後半の対報酬が決定されておらず,合計で1470万円,最悪の場合は1920万円が18年度より減額となる.
 また生活支援センターやグループホームは移行後の単価報酬が未定のため,本総会で提出した予算案は9月までであり,10月以降は補正予算を組むことが必要になる.そして事業計画案,予算案,補正予算の組み直しについて異議なく承認された.

第3号議案:定款変更
 自立支援法の影響は定款にも及んだ.10月以降の事業移行に伴い,定款が定める事業の名称も変更しなくてはいけない.事務文書上の変更であるため,定款変更のための臨時総会を開催することなく,理事会の決議で変更ができるように総会において諮られ,承認された.

第4号議案:役員改選
 役員改選の年にあたり石黒サナエが退任し,坂本智代枝,須釜嘉余子,堀澄清の3名が新任された.
 また柳義子が副理事長に就任し,理事長,常務理事3名,監査2名は変更なく会務を分掌していく.
 以上をもって通常総会は無事終了した.


機関紙「やどかり」7月号
(2006.07.15発行)


第7回やどかりの里人づくりセミナー開催に向けて
社会が大きく揺れ動く今,障害者自立支援法と
介護保険法の共通課題を見出し,新たな展望を切り拓くために

 今年4月,とうとう障害者自立支援法が施行された.やどかりの里においても,障害者自立支援法対策本部を立ち上げ,生活支援・居住支援・労働支援の3つのワーキンググループで検討を進めてきているが,次々と明るみになってくる法の実態に大きな疑問と憤りを抱えながら,日々翻弄され続けている.

 法が変わっても,障害のある人の生活実態やニーズは変わらない.しかし,応益負担による退所者の増加や,施設経営を考えざるを得ない日払い人払いの問題など,誰のための何のための自立支援なのかを見失いそうになってしまうような現実の中に私たちは置かれている.

 このような状況だからこそ,私たちは何を軸足に置くのか,譲れない理念はどこにあるのかを改めて明らかにし,活動基盤をしっかりと固め,展望を描くために,人づくりセミナーを開催することにした.多忙を極めるこの時期,セミナーを開催することには消極的な声も聞かれたが,「今だからこそ」取り組むべきだと考え,2月より実行委員会を立ち上げ準備に取り掛かっているところである.

 人づくりセミナーは,今回で第7回目の開催となる.第1回目の開催は10年前,やどかりの里が活動の拡大に伴なう職員急増の中で,活動理念や方針を共有できなくなり,活動の質を保つことが難しくなってきた時期であった.1人1人が主体的に関わり,将来展望を描ける力をもつこと,人間中心の発想で,違いから入るのではなく共通点を見出し,活動の見直しと見通しを立てていくことで問題解決を図っていくことをこのセミナーの積み重ねの中で学んできている.

 対話と共感に基づく活動の進め方や活動の見直しと見通しを考える会議のもち方など,今やどかりの里で当たり前のこととして位置づいている1つ1つのことは,この人づくりセミナーでの体験と学びが大きく影響しているといえる.

 やどかりの里の組織の再生を意識してスタートしたセミナーから地域づくりを意識したセミナーへ,そして自治体との協働やネットワークづくりをテーマにしたセミナーへと広がり,第6回ではいのちと暮らしを基盤にした地域づくりのあり方について展望を描いてきた.そして,今回のセミナーは,社会のあり様が大きく組み替えられようとしている状況の中で,障害者自立支援法だけに注目するのではなく,日本の社会保障制度の歴史的な流れを踏まえ,その中で介護保険法がどのようにできてきたのか,結果高齢者支援の現場で何が起きているのか,そして障害者自立支援法は何をもたらすのか,を明らかにしていく.そして,障害者自立支援法と介護保険法を切り口にしながら,その共通課題を見出し,人間中心の地域社会のあり様を描きだすことが今回のセミナーが目指すところである.

 今回は企画の段階から出雲市の関係者の方々にも加わっていただき,障害分野だけでなく,介護に関わる人たちの協力も得て準備が進められ,これまでとは一味違ったセミナーになると思っている.医療制度改革や介護保険法,そして障害者自立支援法と,法や制度のもつ問題はありながらも,その中で前身の芽を見つけ,新たな展望を描いていくことを3日間のセミナーに期待したい.


機関紙「やどかり」8月号
(2006.08.15発行)


今このままでは「移行できない」新事業の改善を
厚生労働省障害福祉課事務連絡の波紋


 6月半ば,一通の事務連絡から,大きな衝撃が全国の障害関係者に広がった.

 その文書とは,都道府県・政令指定都市・中核市の障害保健福祉主管課宛に出された,6月14日付厚生労働省障害福祉課の事務連絡文書である.この文書により,精神障害者社会復帰施設などの今年度の国庫補助所要額の内示は,上半期(4〜9月)は3月の主管課長会議等で示された単価表に基づき算定した6か月分の額とするが,下半期(10〜3月)については6か月分の所要額の合計額に新体系への移行後の残存率75%を乗じた額とする旨が自治体へ“連絡”されたのである.

 一読しただけでは分かりにくい内容ではあるが,国庫補助金の額が現在の施設の75%分しか確保しないと読み取ることができる.「残存率75%とはいったい何か?」「下半期の補助金は25%カットということか?」など,関係者からは疑問の声が上がった.自治体担当者からも「想定外のこと」「あまりの内容に,関係施設に情報提供することをためらった」などの反応が返される事態となった.

 障害者自立支援法(以下,法)はこの4月から段階的に施行され,10月から本格スタートする.しかし,7月に入った現段階においても新事業の内容の詳細は明らかになっておらず,移行の準備をする時間的ゆとりもなく,全国的に見てもこの10月から新事業へ移行する施設は少ない.とても現在の施設数の内25%も移行できるとは考えられないのである.やどかりの里も10月からの移行は見送っている.また,この4月からの補助金は既に5%カットされており,各施設とも厳しい運営を強いられている.これ以上の補助金削減は,施設の運営に深刻な影響を与える.そうした現状で,今回の通知が出されたのである.全国の関係者の受けた衝撃の大きさは容易に想像できよう.

 その後,厚生労働省は,自治体からの問い合わせや障害者団体の全国組織からの緊急の申し入れを受けて,6月23日付で事務連絡を出した.この文書では「下半期について『75%』としているのは,こうした新たな事業体系へ移行が進んだ場合を想定したものであり,下半期の各施設の運営費単価が75%になるというものではない」と明記した.しかし,一方で,「国庫補助金にかかる交付決定等の執行手続については,本年10月以降の新体系への移行状況を見つつ,対応することとしている」とも書かれていた.

 各施設の運営費単価が25%減になるものではないとしながらも,現段階では補助金がきちんと確保されているのか,はっきりしない書き方である.いずれにせよ,補助金削減の可能性をちらつかせながら新体系への移行を強く迫っているようにも受け取れる今回のやり方は,納得のいくものではない.今後も厚生労働省から出される通知を注意して見守っていく必要がある.

 この問題は,単に施設の運営が成り立たないという問題ではなく,応益負担の問題に象徴されるように,法の本質的な問題から捉えなければならない.多くの施設が新事業体系に「移行しない」のではなく,「移行できない」状況は新事業体系への声なき批判である,と捉えることができよう.

 今後も法による障害のある人への負の影響が少しでも軽減できるよう,全国の関係者と手をつなぎながら改善に向けた動きを作っていかなければならない.


機関紙「やどかり」9月号
(2006.09.15発行)


これでいいのか障害者自立支援法」の声,各地で続々


2006年4月1日一部施行,10月1日全面施行となる「障害者自立支援法」(以下自立支援法)だが,全国各地で自立支援法への緊急要望や意見が続々国に対して挙げられている.まさに,やどかり出版が緊急出版した「これでいいのか障害者自立支援法」が,全国の声を先取りした形だ.

 全国の動きで注目されるのは,全国8団体(日本身体障害者団体連合会,日本障害者協議会,DPI日本会議,日本盲人連合,全日本聾唖連合,全国脊髄損傷者連合会,全日本手をつなぐ育成会,全国精神障害者家族会連合会)による厚生労働大臣にあてた「障害者自立支援法の早急な見直しを求める緊急要望」だ.自立支援法の法案審議段階では,意見が割れていたが,成立後再び緊急要望を提出したことの意味は大きい.また,法を成立させた与党「公明党」も6月15日に「障害者自立支援法完全施行にあたっての緊急要望」を厚生労働大臣に提出している.利用者負担についての負担軽減措置を筆頭に掲げている.

 法案審議段階で「安心・安全の負担軽減の仕組み」と標榜していたものだが,全面施行前に自立支援法を成立させた与党から問題提起が行われたことは大きい.

 また,各地でもさまざまな取り組みが始まっている.各地で大規模な集会が企画され,自立支援法の改善や見直しを求める声が上がっている.そうした声に呼応するように,各地で自治体による負担軽減施策が発表されている.政令市だけを見ても,札幌市,千葉市,横浜市,川崎市,京都市,神戸市,福岡市ではすでに施策がスタートしており,仙台市も独自施策を始めることを発表した.

 これ以外にも全国の各市町村でさまざまな施策が広がっており,今後益々広がりつつある.
 こうした状況の下,8月24日に障害保健福祉関係主管課長会議が開催された,前回の6月14日の同会議も含めて,拙速の自立支援法の問題が全面施行前に噴出している状況と言えよう.そうした問題にパッチワーク的に手当てするという動きが進んでいる.例えば,グループホームの入居者が入院した際の支援をグループホームの職員が行っても,一切報酬が認められなかったが,その見直しが行われた.やどかりの里でも入院したグループホームのメンバーに職員が支援をするのは当然のことだったが,その支援がこれまでは認められなかった.あまりにおかしいという声が続出したのであろう.さすがに見直しが行われた.一方で,就労継続支援A型事業に特例ができて,雇用によらない利用者も作業場所や作業内容を分けることでA型の利用が可能となるというおかしな特例が発表されている.障害のある人の雇用の実態をさらに引き下げていく変更と言わざるを得ない.これ以外にも,首を傾げざるを得ない改正点が盛り込まれており,自立支援法自体さらにわかりにくくなっていく.

 自立支援法は,本来障害のある人たちの生活や労働を支える制度で,大切なライフラインとなるはずだった.しかし,現在の状況は,大切なライフラインに水漏れ箇所があちこち見つかり,ライフラインの総取替えが必要なのではと思うほどだ.現実には水漏れ箇所が続々見つかっており,バタバタとその水漏れの手当てをするといった状況だ.しかも本格施行を前にこの事態である.

 さいたま市議会に自立支援法によって発生する利用料の負担軽減措置を求める請願署名も57,000筆(8月30日)を越えた.さいたま市内の関係者の声が確実に多くの市民に伝わっている.やどかりの里でも各部署で汗をかきながらお願いに歩いた.こうした1人1人の切実な思いが,この署名の数に表れている.多くの市民の賛同や応援,障害のある人や関係者の行動が法を改善する大きな力となる.あきらめずに粘りづよく行動することだ.


機関紙「やどかり」10月号
(2006.10.15発行)


  「さいたま市っていいね」を実現するために

 さいたま市障がい者施設連絡会とさいたま市障害者団体協議会では,さいたま市9月定例議会(以下,9月議会)に先立ち,8月30日に障害者自立支援法(以下,自立支援法)施行に伴う市への請願を57,377筆の署名と共に市議会事務局へ提出した.自立支援法のサービス利用にかかる利用者負担について,市独自の負担軽減策を講じることを請願項目とし,請願行動を始めて僅か2か月間で集まった署名である.

 9月議会では,11日,12日に市政に対する各会派からの一般質問(以下,代表質問)が行われた.請願行動の行く末を見守るため,市内の障害がある人,家族,関係者が傍聴席84席を埋め,その他議会会議室や市役所ロビーで傍聴した人を含めると2日間で延べ470人が集った.

 代表質問では,8会派より9人の議員が質問に立ち,内6人が自立支援法に関する内容を取り上げた.市としての利用料負担に関する見解を問う質問や,障害者の実態をどのように認識しているのか,今後検討するのならば具体的にどう取り組むのか,また,その時期はいつか,などの質問が上がった.それに対し,実態を把握することが唯一市からの具体的な回答であった.

 相川宗一市長は質問に対する回答の中で,自立支援法は全国で均一の基準があり,その範囲で提供されることが必要であるとしながらも,「私としては,障害のある人たちに急激な変化のあると感じており,適切な対応を考えていく」と市長としての見解を述べた.

 市政について多種多様な議論が行われる市議会で,これだけ多くの会派が自立支援法に関する質問を取り上げたこと,更に市長自身の考えが出されたことは大きな一歩である.様々な立場,信条を超え,障害のある人,家族,関係者が一丸となった請願行動で得た約6万筆の署名とそこに賭ける思いが市政に反映される僅かな兆しが見えてきた.

 障害を越えた多くの人々と協働しての署名活動,市議会議員への働きかけや市議会の傍聴など今回の請願行動を通し,やどかりの里としても初めての取り組みが数多くあった.特に市議会の傍聴では,市の政策が決定されていく過程を知る機会となった.ここ数年やどかりの里では,日本の障害者政策について考えるとき,社会保障に関する政策や経済政策など国全体の動向から目の前のことだけではなく,その背景を見据え,問題の本質を見極めていくことが大切であると学習を重ねてきた.足元であるさいたま市についても,自立支援法に関する施策だけではなく,市政全体の動向を見守ることが大切であろう.

 9月議会の会期終了後に,保健福祉委員会で請願について検討がされる.8月30日以降,署名の数は6万筆を越えている.1日も早い施策の実現を求めるためには,更に署名の積み上げが必要だ.「さいたま市っていいね」と私たち自身が感じられるよう諦めずに行動することは,市政へ大きな影響を与えるだろう.
 さいたま市の障害のある人,その家族,関係者が一丸となって,自らの権利を勝ち取るための第一歩が記された.


機関紙「やどかり」11月号
(2006.11.15発行)


障害程度区分とやどかりの里


 2006年10月1日,障害者自立支援法が本格施行された.その前後から,この法の不備がマスコミ等でもしばしば取り上げられ,臨時国会の予算委員会などでも障害者自立支援法についての質問が出され,始まったばかりの障害者自立支援法の改正法案が民主党を中心に今国会で提出される動きもある.法案を成立させた与党も含めてこの法に大きな欠陥があることを認めざるを得ない状況である.

 こうした中で,106項目にわたる障害程度区分の認定調査項目の問題も指摘されており,各地で気になる動きが見え隠れしている.
 障害者施設の経営問題と障害程度区分の問題である.従来の授産施設などが介護給付の「生活介護」という事業を選ぶ場合に,障害程度区分によってその人を支援する際の報酬額が違うのである.(就労継続支援という事業は訓練等給付なので,障害程度区分による報酬の違いはない)

 施設によっては,いかに障害程度を重く判定させるかの研究を重ねているところもあるという.また,障害のある人の働くことを支援してきた施設が,生活介護の事業を選択するのが,そこで働いていた障害のある人の希望に合致しているのかという疑問もある.施設の経営を考えれば,そういう手段をとらざるを得ないということなのだろう.しかし,障害程度が重くなると,本人の負担も重くなるのである.この根本問題を忘れてはならない. 

 この法の審議過程で,障害程度区分認定調査は,全国統一で透明性のある仕組みと喧伝され,障害者自立支援法の目玉の1つであった.しかし,実際には高齢者の介護保険法の介護認定のための調査項目をベースにしているため,さまざまな障害があり,幅広い年齢層の人たちがいる障害のある人の障害の重さについてはかるには不備な点が多いと指摘されていた.確かに,介護給付を受ける人の場合,審査会での2次判定が行われるが,上位区分への変更率が高く,精神障害のある人の場合では国平均で52.9%,さいたま市内では65%という結果になっており,認定調査項目がその人の障害程度をはかる適切な物差しになっていないことは事実だ.

 しかし,障害程度を適切にはかる仕組みにするという改善方法でいいのだろうか.そもそも障害程度をはかるという考え方に根本的な誤りがあるのではないか.

 やどかりの里は,精神障害のある人を「病者」としてではなく,「生活者」として関わることの大切さを主張してきた.精神疾患の症状や障害による不都合に注目することへの反省があったからだ.そして,疾病や障害があってもその人がどんな生活の実現を望んでいるのか,そして,その人が自分なりの夢や期待を持てるように関わることを大切にしてきた.そのためにどのような環境を整える必要があるのか,そこをともに考えるのが関わりの基本であった.

 障害程度区分の考え方は,まさに逆行するものだ.この人は何ができないのか,そしてできないことを数値化するのが,この仕組みである.本人の希望や願いは後回しにされ,まず「障害程度区分」ありきなのだ.そして区分けされた中で,「あなたの利用できるサービス」が提示されるのである.

 精神障害のある人たちは,中途障害であり,自分の疾病や障害を受け止めるには時間が必要だ.そして,仲間との出会いやさまざまな経験を重ねる中で,回復し,人間的な成長をしていく.こうした過程を大切にしていくことと,障害程度区分の考え方はなじまない.

 障害程度区分と応益負担,そして日割りによる報酬の支払い,こうした制度が,障害者福祉の水準を大きく切り下げることになる.

 そして,施設の経営中心に考えれば,利用する人の負担が増し,施設側は経営に都合のよい人を選ぶようになる.

 こうしたときだからこそ,活動理念を互いに確認し合い,問題の本質を見つめる目を濁らせないことが大切である.


機関紙「やどかり」12月号
(2006.12.15発行)


障害者運動の歴史的な1ページ
 〜権利は勝ち取るもの〜


  去る10月31日,日比谷公園において『出直してよ!障害者自立支援法 10.31大フォーラム(以下,フォーラム)』が開かれ,全国各地から約15,000人の人々が集まった.やどかりの里からも,約90名のメンバー,家族,職員が参加した.1年前の10月31日は,障害者自立支援法(以下,法)が成立した日である.その後,法の根本問題である定率負担制度を巡って,各地で負担軽減措置や改善を求める運動が続けられている.さいたま市も例外ではない.

 法が4月から段階的に施行され,既に,施設からの退所者問題,利用料の滞納など,当事者や家族の暮らしへの影響が深刻に出始めている.障害を持ちながらも,一人の人間として地域であたりまえに生きる権利を,この国はどう保障しようとしているのか.全国各地で起こっている様々な運動,そして今回のフォーラム15,000人の参加者の思い.それは,この国において1人1人の生きる権利を保障することを強く求める運動であり,思いであろう.

 そうした状況の中開催されたフォーラムは,当日4会場で開催され,法の見直しを求め,多くの人々が自分たちの置かれている状況を訴えた.埼玉県,さいたま市からも多くの関係者が参加し,法への危機感の強さが伺われた.各会場でのフォーラム終了後,東京駅までのデモが行われ,行き交う人々に法の問題を訴えた.

 フォーラムの取り組みとともに,この間の国の動きをおさえておくと,10月7日に,民主党が法の定率負担制度の凍結を盛り込んだ「障害者自立支援法改正案」と「6つの緊急提言」を発表.その後,現在会期中の臨時国会にて提出.今後の審議を注視することが重要となる.

 一方,世界に目を転じると,6月に国連の障害者権利条約アドボック委員会にて条約案がまとまり,年内の国連総会にて採択される見通しである.国際法は,国内の法律より優先され,日本政府はこれに批准する姿勢を示している.批准されれば,国際法と国内法の整合性をとっていく必要があるため,国内法の見直しがされることになる.こうした障害者権利条約の採択など,世界の動きも日本の障害者福祉向上を実現していく上では注目しておくべき動きである.

 一方,さいたま市では,この間,定率負担の軽減措置を求める請願運動を行ってきた.市議会議員へ,障害のある人,家族,関係者が直接自らの声を届け,駅頭署名では広く一般市民へ法の問題を訴え,障害のある人の置かれている状況の理解を求めてきた.12月市議会において,さいたま市は何らかの負担軽減措置を講じると言われている.

 「権利は行使して初めて権利となる」と表現した人がいる.いつの時代も,主権者として,連帯の運動のうねりの中で自らの権利を得ていく.権利は誰かに与えられるものではなく,自ら行動して勝ち取っていくものなのだ.1人1人が主権者となって運動を続け連帯していくこと.そのことが,自らの意志を確実に制度・施策へと反映させていくものとなっていく.

 10月31日は,私たちの人権保障の運動を結実させていくための新たな歴史を刻んだ1日だったと言えよう.


機関紙「やどかり」1月号
(2007.01.15発行)


2007年 私たちが切り拓いていく世界

  2006年は,やどかりの里にとって,新たな地域精神保健福祉活動の一歩を踏み出した1年であった.
 さいたま市においては,多くの関係者との連携した取り組みが進んだ.たとえば,さいたま市における障害者自立支援法(以下,自立支援法)による負担軽減措置を求める請願署名活動,障害者協議会と障がい者施設連絡会との共催による継続した学習フォーラムの開催,行政と障害者生活支援センターとの定期的な話し合い,関係者による退院支援事業の取り組みなど,様々な関係機関との共同の取り組みが進んだ.
 合わせて,市議会の傍聴を通して,さいたま市の施策がどのように決まっていくのか,住民の声はどこまで施策に反映されていくのか,その過程を知ることともなった.

 全国的には,10月31日に開かれた自立支援法の見直しを求める大フォーラムに参加し,法によって暮らしが後退することのないよう,障害のある人たちとともに切実な声を訴えた.
 様々な学習の機会を通して,社会を見る目を育て,自ら行動する力を培ってきた1年だったと言える.そして,こうした取り組みから,1人1人の権利意識が育ってきている.

 しかし一方で,自立支援法に翻弄された2006年であったとも言える.しかし,自立支援法の本質的な課題を見つめる努力をしたり,自立支援法によって,障害のある人の暮らしやいのちをこの国,また地域においてどう守っていくのか,やどかりの里の組織活動を見直し,関係者とともに知恵を出し合う機会を作り出してきた.
 関係機関の人たちとの連携は,障害のある人も含め,私たちにとって暮らしやすい街づくりへの転換を図っていくことに繋がっている.それは,障害のある人の問題を少数者の問題ではなく,多くの市民の問題へと転換していくことでもある.
 障害のある人とともに学び合い,育ち合い,障害のある人も,そうでない人も,自分らしく暮らし,働き,生きていくことが可能となる社会をつくっていく.そこに,私たちの活動の大きな目標がある.
 2006年度の様々な取り組みを今後も継続し,発展させていくことが重要である.学習を重ね,権利意識を育てながら運動を進めていくことを通して,自立支援法を部分にした新たな道を見つけていくことが,2007年,やどかりの里の目指すべき方向であろう.

 やどかりの里は,生活協同組合やアメリカの社会的企業の実践を学習し始めている.住民の切実な生活要求を実現するため,学習を基盤に据えた組織活動と社会運動としての生活協同組合の運動は,これからの私たちの地域活動に示唆を与えてくれた.
 地域には,さまざまな生活課題や健康課題がある.自立支援法だけでなく,改訂介護保険法,医療制度改革等々,社会保障の水準が低下する中で,切り捨てられていくものがある.だからこそ,身近な地域でのつながりが大切になる.その中にこそ,これからを切り拓く鍵があるはずだ.新たな道を模索する2007年としていきたい.


機関紙「やどかり」2月号
(2007.02.15発行)


いのちを守り,「響き合って生きる」街へ
〜イトロ・ツアー・フォー・ピース2007さいたま公演開催に向けて〜

 やどかりの里は,5月,チェコ少女合唱団イトロをお招きしてコンサートを開催する.昨年,実行委員会を組織し準備を進めてきた(機関紙2006年7月号参照)が,今月よりチケット販売を開始,当日に向けて本格的に動き出した.

 このコンサートの企画には,3つの目的がある.
 1つは,いのちや平和であることの尊さを多くの人たちと改めて見つめ直したい,ということ.

 2つめは,近年,障害者自立支援法の強行施行に見られるような,人々の権利をないがしろにし,いのちが削られてしまうような状況に,私たちがおかれていることを伝えていくこと.

 3つめは,これらのことを多くの方々と共有し,響き合いの輪を広げていく.現実問題としてやどかりの里の財政基盤づくりの一環として取り組むことになる.

 前回,2003(平成15)年8月に開催した「夏の響きコンサート」に引き続き,いのちと平和をテーマにしたコンサートである.
 当日のプログラムは,チェコ出身の著名な作曲家ドヴォルザークなどの作品のほか,被爆体験の実話を基に綴った歌2曲も予定されている.この2曲を,イトロの少女たちが日本語で歌い上げる.被爆の体験の悲惨さ以上に,澄み切った歌声とともに生きることの尊さや幼子を生かせようとするメッセージが伝わってくる.

 日本では,障害者自立支援法が私たちの声のとどかぬまま強行採決され,そして,生きるために必要な支援を受けることを益とされてしまうことになった.追い詰められた親子の心中事件も起きた.
 教育基本法改正,憲法改正の動き,労働時間規制の見直し,など障害保健福祉分野にとどまらない,大きな歴史のうねりの中に私たちはいることを感じる.
 こうしたときだからこそ,守られていることがあたりまえであろうはずの,いのちや平和についてその尊さを確認することが大切ではないだろうか.そしてこうしたことを守るために,あるべき未来像を描きながら,市民として常に声をあげていく,その延長線上にこのコンサートもあろう.

 今回のコンサートは,リニューアルしたやどかりの里後援会の主催企画でもある.やどかりの里は,今,財政基盤が大きく揺るがされ,障害者自立支援法に示される新事業への移行を考えても,未だ活動の展望が描けない厳しい状況である.このコンサートを通して,後援会と一体となって多くの方々と手を携えて行く,新たな一歩を踏み出して行くことになろう.
 そして理屈なしに,彼女たちの澄んだ歌声は心に響く.一人でも多くの方々にお聴きいただけるよう,精力的に取り組んで行こう.


機関紙「やどかり」3月号
(2007.03.15発行)


平成18年度総括会議報告
活動を自分たちの手で切り拓くために
〜運動と創造への第一歩〜

 去る2月15日(木)に1年の活動を振り返る「やどかりの里総括会議」が開催された.各部署ともに多忙を極める中,多くの職員,メンバー,家族が参加し,5時間半にわたる報告や討論が行われた.

 今年度のやどかりの里の取り組みは,「障害者自立支援法への運動と対応」の1年であったといえる.法の示す内容に身の丈を合わせるのではなく,法の矛盾をきちんと捉え,さいたま市内の関係団体と力を合わせて法の改善運動に取り組んできた.その結果,さいたま市内,県内,障害を越えたネットワークの広がりができ,さらにはさいたま市独自の負担軽減策の実現という大きな成果をあげることができた.

 こうした取り組みの背景には,学習を基盤にしながら1人1人が自分の問題として主体的に取り組み,ものごとを捉える力をつけてきたこと,力を合わせて行動することで,チームワークやネットワークが強化されたことなど,まさしく今年度の活動方針である「学習と運動」「連帯と地域貢献」のもとの取り組みであった.

 今年度は,障害者自立支援法対策本部を設置し,相談支援・居住支援・労働支援の3つのチームを編成し検討を重ねてきた.
 昨年10月より新事業に移行したグループホームと生活支援センターは法への対応に追われながらも,これから必要とされるニーズは何かを改めて見直し,新事業の立ち上げについてあらゆる可能性を探っているところである.労働支援チームについても,労働支援開発プロジェクトを始動し,新たな就労支援の取り組みに踏み出している.障害者自立支援法という負の力を受けながらも,その危機感をみんなで共有し,ピンチを発展のエネルギーにしているのが今のやどかりの里である.そして,これまであたりまえにあった仕組みが崩されていく中で,改めて何を大切にしてきたのかを1人1人が意識化し,やどかりの里の活動理念に立ち戻る機会ともなっている.
 やどかりの里は創設以来幾度となく危機を迎え,そのたび「必要な活動は自分たちの手で創っていく」という思いを束ねて乗り越えてきた.そして今直面している危機を,どのような人たちと,どのように乗り越えていくかが問われているだろう.

 私たちが生きる今の社会は,障害者自立支援法に限らず,介護,医療,教育,労働,福祉をはじめ,暮らしに関わるあらゆることに国民が痛みを伴う仕組みが造られている.憲法までもがその骨格を変えようとしている今,国民全てに関わる問題であるといえるだろう.一体誰のための何のための国づくりなのだろうか.
 総括会議の中で「やどかりの里に来てからの7年間本当に幸せな時間を過ごした」という発言が多くの参加者の心に響いた.これがやどかりの里が目指す「大切なもの」である.人間があるべき原点に光をあて,1人1人の生きる力を支えるための活動を切り拓いていくことが,やどかりの里の強みでもあり,この危機を乗り越えるための私たちの対抗軸になり得るのではないだろうか.


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