-TOPICS-
  


2002(平成14)年度 機関紙 1面 記事

 


機関紙「やどかり」4月号
(2002.04.15発行)


2002年度活動方針

自己完結型の活動づくりからの脱却,
そして,パートナーシップへ

 1999年,2000年と2年にわたって行った状態調査の結果 にもとづき数回の話し合いを行い,そこ から導き出された「やどかりの里の5つの課題」がある.(本紙2001年5月号を参照)昨年度はその 5つの課題について,数回の話し合いの機会を設け,メンバー,職員が集まり検討してきた.まず着 手したこと,問題意識はあってもすぐに取り組むことが難しいことそれぞれであるが,今年度の活動 方針は,その話し合いの内容を基盤にして考えられている.
 今年度の活動方針には,大きく2つの柱があるといえよう.1つは,やどかりの里が自己完結型の 活動づくりからの脱却を図り,ネットワークづくりの中で,これからの活動づくりを考えていくとい うことである.もう1つは,メンバーと職員の協働を標榜しながら活動を展開してきているが,さら にその内実を作っていくことである.
 これまでやどかりの里は,日々の実践の中で,必要に応じて資源を開拓し,活動を広げてきた.何も資源のない中では,法人独自の努力は不可欠であった.しかし,やどかりの里は1つの民間団体に 過ぎず,精神障害者の支援態勢にしても,街づくりを視野に入れた地域づくりでも,できることには 限りがある.また,やどかりの里のような民間団体が担っていくことがある一方で,自治体の責任で 展開すべきことがあるのも事実だ.埼玉県やさいたま市という自治体とどのような連携をとっていか れるのか,どのようなパートナーシップを結ぶことができるのかが問われている.また県内,市内の さまざまな団体とのネットワークづくりも重要である.横のつながりを重層に丁寧に創っていくこと が大きな課題である.
 一方で,メンバーと職員が協働し,活動づくりを進めていくことは,まだ緒についたばかりである. 昨年度は,メンバーと職員によるチームを作り継続した学習が積極的に進められた.1年間で結実す ることではないので,今年度もそうした地道な取り組みを続けていくことになるであろう.私たちは, 変化が激しい社会状況の中で活動しており,視野を広げて,総合的に情勢を見極め,活動の方針を決 定していかなくてはならない.そして,その決定のプロセスが関わる人たちに開かれたものでなけれ ばならない.そのための努力を続けていくことになる.
 やどかりの里の活動の原点には,「その人のありのままを認める」という1人1人を大切にしていこ うという考え方がある.それは,病気や障害のある無しにかかわらず,1人1人が主役の人生を実現 していくことでもある.さいたま市は,障害者計画を新たに作成する.この計画に,1人1人のいの ちと暮らしを大切にする視点を盛り込むために私たちが貢献できることを模索していきたい.


機関紙「やどかり」5月号
(2002.05.15発行)


住民の願いや思いを施策化するために

 現在さいたま市では,3市合併したことに伴い,保健福祉総合計画,障害者計画などの策定を進めている.障害者計画は,平成15年度制定に向け検討協議会が作られ協議を進めている.策定委員は20名で,精神保健福祉の団体からは,家族会の代表者とやどかりの里の理事長が参加し,他の障害者団体からも選出されている.検討協議会では,計画の理念や具体的な内容などについて協議される.

 3月28日には第2回目の障害者計画検討協議会が開かれ,障害者の生活状況の実際を把握して基礎資料とするために配布されたアンケート結果 について協議された.市民の傍聴ができるため,やどかりの里からもメンバー2人,職員2人が参加した.検討協議会では,アンケートは障害者の暮らしの実態を表しきれていないことが各委員から述べられた.様々な障害をもっている人たちの暮らしは様々に違うはずだが,内容は画一的で暮らしの実際を把握していない人が作成したため,その内容には限界があることが確認された.また,前日に開かれた保健福祉総合計画の傍聴にも職員1人が参加した.

 やどかりの里の私たちは,さいたま市の施策へ関心を寄せるようになっている.障害者計画の策定がどのように進められていくのか,私たちにとってどういった施策や計画が必要なのか,政策を他人事と捉えず,自分事として考えていこうという意識が強まっている.
 最近では,市内の障害者団体との学習会にも参加し始めている.この学習会は,障害者計画の策定委員の1人でもあり,ご自身も車椅子の生活を送る傳田ひろみさん(OMIYAばりあフリー研究会代表)の呼びかけから始まった.「現場の声を計画づくりに反映させていきたい」という彼女の思いに共感した市内の障害者団体の関係者の集まりである.1月から始まったこの学習会は,月に1回のペースで開かれ,やどかりの里からも,メンバー,職員合わせて7人が参加している.様々な障害者団体の人たちが集まっていることから,お互いをよく知り合うことから始め,障害者計画検討協議会の進行状況に合わせて学習を進めている.初回から参加している増田は,「様々な障害を持った人たちとの学習は,コミュニケーションをどう図っていくのかがまず問われ,学び合うことは,お互いの努力が必要」と感想を述べている.

 こうした学習会が,市内の障害者団体の横のつながりをつくっていく第一歩になるのであろう.1人の声に共感した仲間たちのつながりが,やがて大きな動きとなっていく可能性を秘めている.
 今後,当事者が政策に参画していくことを目標に据えながら,障害種別 を越え,学習を基盤にしながら,私たちの声を自治体に届けていく取り組みをたゆまなく続けていかなければならない.単に自分たちの主張を押し通 すのでなく,対話と共感に基づきながら,互いを理解し合い,私たちの思いや願いを施策化していくことが,これからのやどかりの里の新たな挑戦であろう.


機関紙「やどかり」6月号
(2002.06.15発行)


第31会通 常定期総会の開催
2002年度事業,新役員態勢のスタート

 社団法人やどかりの里 第31回通 常総会は,5月25日(土),やどかり情報館にて開催された.総会の出席者94名,委任状提出者209名で,総会員393名の定足数197名を満たし,成立のはこびとなった.

 今年度は通常の決算予算報告及び審議以外に,定款の変更,役員の改選を控えていたため,定款変更案や法人全体の決算,予算状況など,事前資料の配付が丁寧になされた.

 総会は白石直己が司会を務め,議長は香野英勇理事が選出され,以下の議案を審議した.
1.平成13年度事業報告及び決算報告承認
2.平成14年度事業計画案及び予算案審議
3.定款変更審議
4.役員改選審議
5.その他

 1号議案の事業報告については「所報」が作成されている.決算は昨年度までの決算処理と書式を変えたこと,これは法人全体の姿をより明らかにするためであり,私たちの活動がいかに補助金に依拠したものになっているか再確認せざるを得ないことが,浅見理事より報告された.審議の結果 ,満場一致で本件は承認された.

 2号議案では,まず増田常務理事が,精神障害者のための資源づくりに追われていたこの10年間を振り返り,今後は他の団体,自治体,住民といかにパートナーシップをとり 活動を展開していくかが重要であると語った.各部署の代表による活動方針が発表された後,予算案については,細目に渡り説明され,審議に入った.こちらも満場一致で承認された.

 3号議案の定款変更について,まず増田常務理事より変更の理由が述べられた後,浅見理事が,本日の定款変更の最終案は所轄官庁である埼玉 県や司法書士と協議したものであることを述べ,変更箇所についての詳細な説明をした.質疑の後,全員異論なく承認された.

 4号議案の役員の改選であるが,定款の変更承認を受け,昨年度1年間の暫定理事であった理事一同はここで一旦役員の辞任をし,その後14年度の新理事が選出された.新理事から3役を選出するため暫時休憩後,再開された総会において以下の3役及び役員が承認された.

 理事長  土橋敏孝
  副理事長 孤嶋圭子
  常務理事 増田一世(統括渉外担当)
      三石麻友美(事業担当)
      浅見典子(総務財務担当)
 理 事  粕谷慶治,志村澄子,柳義子,島田喜代子,香野英勇,
       辰村泰治,吉江まさみ,山崎光夫
 監 事  白石正喜,吉田悦実

 以上の執行部体制で今後2年間法人の業務に携わっていくことになった.また,理事会から谷中輝雄前理事長の会長への就任が要請され,本人から快諾を受けた.

 

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1人1人が活動の担い手に
−第31回定期総会の意味するもの−

 5月25日,第31回(2002年度)定期総会が開催された.今回の総会によって,やどかりの里は大きく転換したといえよう.それは谷中輝雄理事長が会長となり,理事長が土橋敏孝理事長となったことである.

 理事長の交代は,単に理事長の交代ということだけではない.設立30年を過ぎたやどかりの里が,これまでの経験を生かしつつ,次なる展開を目指していくという大きな節目を迎えたということである.理事長の交代,そして法人の定款の変更が,どのような経過で検討され,総会で決議されるに至ったのか,振り返ってみたい. 1997年が1つの契機,力量形成の自覚からやどかりの里は,1990年に社会復帰施設(通 所授産施設,援護寮)を開設し,10年の間に地域の中にグループホーム,地域作業所,生活支援センター,福祉工場とさまざまな資源を作り出してきた.目に見える形での活動は充実してきたが,大きくなる器に人材の養成が間に合わず,職員間で活動理念や方針を共有することが難しくなり,内部的な危機を迎えていた.そして,これまでの1人の突出したリーダーに依拠する組織運営の限界が見え始めていた.

 1997年にやどかり情報館(精神障害者福祉工場)が開設され,資源開拓が一段落したころから,各部署に配属されている責任者(チーフ職員)の会議で,内部的な問題について話し合う機運が生まれ,まずは自分たちの力量 形成の必要性を実感するようになった.同時にやどかり情報館ができたことにより,同じ法人の中で精神障害者(メンバー)が利用者ではなく労働者として働き始めることにより,これまでのメンバーと職員のあり方についても,考えるようになった.

 1997年は,ここ数年のやどかりの里の活動の転換のターニングポイントになった年であった.チーフ職員は,自分の担当部署だけではなく,やどかりの里全体を視野に入れ,活動の責任者として運営していくことを意識するようになっていった.これは,なんでも谷中理事長に依存するのではなく,1人1人が自分の頭で考え,行動することを意識化することでもあった.そして,組織が大きくなっているために,お互いの情報共有と話し合いを大切にして,やどかりの里全体の運営を考えていくようになった.こうした意識の転換から,これまでの職員主導の活動から,各部署であるいはやどかりの里全体で,メンバーとともに活動の運営について話し合い,決定していくようになっていった.

 そして,1997年を1つの契機に,この5年は日々の実践を基盤にしながら,研修を重視し,それぞれの気づきを記録化しながら,研究活動にも着手してきた.そして,その中から導き出されてきたのが,連帯と協働による組織運営,活動づくりであった.その結果 ,メンバーと職員がともに学習を重ね,活動の方向性を導き出しつつある.これにはやどかりの里の内外の多くの協力者の力があったことも事実で,職員やメンバーが自分たちの力量 を見極め,力量不足の点を多くの人たちの力を借りることで,補ってきたのである. 第30回定期総会の問題提起から第31回定期総会は,こうした過程を経て迎えた総会であった.具体的には,第30回定期総会での谷中理事長からの問題提起に応える形で,1年間「理事会のあり方を考える会」を開催し検討してきた.谷中理事長の問題提起は,補助金事業が増えてきた中で,社団法人で活動を続けるのか,社会福祉法人化を検討するのか,そして,自分は今年度1年で理事長を退任したいので,あとの態勢を考えて欲しいということであった.

 そして,昨年度常務理事となった私を中心に,「理事会のあり方を考える会」を発足することが総会で決まった.理事会からは土橋副理事長,孤島副理事長,粕谷理事,職員の浅見理事,宗野政美氏,坂本智代枝氏,メンバーの香野理事,峯野理事,吉江まさみ氏,家族の山田まさ子氏,会員の泰勝磨氏らに参加を要請し,4回にわたる会合を開催してきた.

 この中で,創設者でもあり,活動をリードしてきた谷中理事長の存在の大きさを確認し,内外に与える影響の大きさについても話し合ってきた.しかし,どんな組織においても世代交代は行われなくてはならず,30年の大きな節目を迎えたところで,理事長が北海道医療大学で,人材養成に力を注ぎたい,新たな障害者計画の策定時期にあたり,国の大きな流れを作っていくところで,自分の役割を果 たしたいという思いも受け止め,理事長交代もやむなしの結論を出したのである.

 もう1つの社会福祉法人化については,精神保健福祉法の中では,現在の活動を社団法人で行っていくことに問題はなく,社団法人の持つ意味を積極的に捉えていこうという結論となった.1人1人がやどかりの里の活動を支えていくのだという考え方の大切さである.もちろん,さまざまな補助金によるサービスを利用する人に,法人の会員になってもらうことを義務化するものではない.法人会員はきわめて自主的なものであり,やどかりの里の活動の方針に共感し,1人の担い手となっていくことは自身の選択である.しかし,サービスの利用者としての自分から,自分も何かに貢献できる,関与できるという意識の転換が,病気の回復にも繋がるのだという指摘をするメンバーの発言もあり,社団法人の会員であることの大切さを自覚していくこととなった.

 こうした基本的な考え方について話し合う一方で,定款の見直しを行っていった.30年前に作られた定款は,現実にそぐわなくなっている部分もあり,文言の修正,また,会長職を創設し,創設者の谷中輝雄氏を会長としたいということも話し合われた.

 理事会のあり方については,地域の住民の方に参加いただけないか,やどかりの里の活動が地域の人たちに開かれた形にしていくためにも地域の方に理事になっていただくことが大切であると指摘された.また,活動の広がりを勘案し,3人の常務理事態勢についても検討し,理事会で提案することとした.こうしたことが理事会に提案され,協議され,総会に提出されたのである.

 第31回定期総会終了後に開催されたやどかり研究所主催の学習会の講師は谷中輝雄会長であった.やどかりの里の原点について,インタビューに答える形で語った.その中で印象に残るのは,精神障害者との出会いの中で,自らの人生を決定し,出会いの中での気づきと学び,そして憤りによって,やどかりの里の理念を築いてきたことである.これは出会った1人1人のありのままを認め,この人とどう生きていくのかという,その時々の真剣勝負であった.私たちは,この思いをしっかりと受け止め,これからの活動を創り合っていくのである.
(増田 一世)


機関紙「やどかり」7月号
(2002.07.15発行)


理事長の交代と「やどかりの里」
土橋敏孝(やどかりの里理事長)

 平成14年5月25日,「やどかりの里」の総会を迎え,1年間の暫定理事会による運営から正規の理事会へとバトンタッチされた.この1年間は,谷中理事長の「理事長を交代したい」との意向を受けて「理事会のあり方」を考えてきた1年でもあった.選出された理事の個々の力や「やどかりの里」を利用するメンバ−の思いが最大限生かせる民主的なものにしたいという願いも込められていた.

 昭和45年に始まった「やどかりの里」も32年の歳月が流れ,精神障害者や家族の方々にとって地域の中で適切な支援を受けながら「あたりまえの生活」をする条件が整いつつある.加えて,いま「やどかりの里」が存在するさいたま市中川は,かつての大宮市中川という位 置ではなく,これから発足する区の一部に所属する.「やどかりの里」はいくつかの区にまたがって存在し,合併した「さいたま市」の今後の精神障害者を始めとする障害者福祉の担い手として期待されよう.このような時代や現状の変化に対応する取り組みが新しい理事会に求められている.

 さいたま市では,現在「障害者計画」が新たに策定されつつある.三障害の連携と障害を持つ者が求める保健・医療・福祉の統合されたプランが必要である.そのためにやどかりの里では,当事者であるメンバ−も参加し,プランへの反映を図るべく努力をしている.このような計画づくりは市民の願いが込もったものとして関心を高めることが重要である.

 ある会合で,長野県北信圏障害者生活支援センタ−所長として活躍されている福岡寿さんが,「障害を持つ子どもを抱えているご両親の生活を生活支援センタ−を通 して支える中で,ご両親が変化し,再び自分達の人生を組み立て直す努力をされるようになった」と報告された.そして,「福祉の専門家は,課題を抱えて生きている人たちの願いに沿いながら課題を解決するお手伝いをする中で,相手が自分の人生を再構築していく力を生み出すものでなくてはならない」と.このことは,単なるサ−ビスの提供者ではなく,人生を一緒に考え課題を抱えている人の思いや願いを,改めて取り戻すための力となることであろう.

 さて,「やどかりの里」も,精神障害で苦しみ悩むメンバーが,病院を退院し,地域社会の中で自分に相応しい生活を取り戻すため,その人に必要なサ−ビスを地域社会に用意し,サポ―ト体制を確立してきた.それらは精神保健福祉法にも取り込まれ,日本全体の精神保健福祉の底上げに役立ってきたといえよう.このような努力の中30周年を迎えて,残されている課題と新しい時代に相応しい取り組みの課題を明らかにしてきた.大切なことは歴史の持つ実績を評価しつつも,現状を確認し対応すると共に,さらなるエネルギ−を吸収して前進を図ることである.我々の願いは,適切な医療の提供により障害を持っても地域社会において「あたりまえの生活」が可能な社会の実現である.ご協力いただきたい.

 


機関紙「やどかり」8月号
(2002.08.15発行)



住民と自治体の連携による健康福祉の街づくり
活動の自律的展開を目指した第5回人づくりセミナー

 去る7月13日〜15日の3日間に渡って,「第5回やどかりの里人づくりセミナー」がやどかり情報館で開催された.セミナーには,やどかりの里のメンバー,職員をはじめとして,内外より61名の参加者があった.

 人づくりセミナーは,やどかりの里の組織の急速な拡大に,関わる職員の力量 形成が伴わず,活動の方向性すら共有できなくなってしまったことへの危機感から,丸地信弘先生(当時信州大学公衆衛生学教室)たちの協力を得て1997年より開催している.昨年度は内外でのいくつかの事業が重なり,行わなかったが,今年度はやどかりの里全体で話し合い,セミナーを開催することを決定した.なお,前回よりメンバーと職員が共に学び合う研修会として行われ,今回も6名のメンバーが主体的に参加した.過去いずれのセミナーも,やどかりの里の実践活動を素材にしながら,「対話の積み重ねによって生まれる共感,そして共感から生まれる価値の共有」を体験を通 して学んできている.

 今回のセミナーでは,やどかりの里の実践の他に,松本市と上尾市の地域における「住民と自治体の連携」の事例を素材とした.このことは,3つの事例の補完関係を通 して,今年度から行われている精神保健福祉業務の市町村への移管を前向きに捉え,関係者の共通 の課題である「地域におけるさまざまな活動を住民と自治体がどのように連携して,どのように創り上げていくか」を,セミナー参加者とともに考えていくことを意味していた.
 そして,セミナーの討論を通 して,私たちの活動の中には,共通した人々の願いと問題を解決していこうという姿勢があり,そのことを構造的に捉える視点がとても重要であるということが再確認されていった.

 その視点は,関わる人々に注目し,自分たちの活動や自分たちが暮らす地域の自律性を意識すること<「見る目」(主客一体)>,次に,組織に注目し,対話と共感から生まれる価値を組織活動に具体化していくこと<「語る目」(時空一体)>,そして,全体に注目し,価値に基づいた組織活動の評価を行うこと<「動かす目」(質量 一体)>である.セミナー3日間は,この「見る目,語る目,動かす目」を対話と共感に基づき,共通 の価値観としてそれぞれが認識していく作業でもあった.

 残念ながら,松本と上尾,そして,やどかりの里の素材からは,「動かす目」で活動を捉え,質量 一体の事例を表すには今一歩至らなかった.質量一体とは,基盤となる共通 の価値観を確認し,それに基づき展開される活動評価を地域活動の自律調節の観点から捉えていくことである.まずは質となる価値を多くの人たちと共有できていることが大切である.質量 一体の評価は,価値の共有なしでは,評価とはならない.私たちが「見る目,語る目,動かす目」をもって,活動を矛盾無く捉えることができたとき,今の社会の構造を大きく変える大切な価値をより多くの人たちと共有することができるかもしれない.そのことはまさしくやどかりの里の価値の普遍化である.


機関紙「やどかり」9月号
(2002.09.15発行)



里祭「やどかりの里と私」を開催して
ともに創り合うやどかりの里を目指して

8月8日,やどかりの里の会員の集いである「里祭」がやどかりの里会館ホールで開催された.参加者は84名.
 里祭の歴史は古い.第1回目の里祭は1977年,財政危機による人手不足のやどかりの里を会員が一体となり,担っていこうとの動きの中で開催されている.その後は,その時代の特徴,創意工夫を凝らしながら「社団法人の会員の集う祭典」として断続的に行われてきた.

 1970年に創設されたやどかりの里も,現在では活動も広がり,人も増え,里祭を知らない人もいる.そうした中で,社団法人やどかりの里の会員の意味について考えていく必要性を感じたチーフ会議が,昨年「里祭」を3年ぶりに復活させた.会員が「やどかりの里と私」を思い思いに語った.主催したチーフ会議は,「里祭」について振り返り,これからのやどかりの里の活動展開を考える上でも,やどかりの里が,「社団法人」として運営されている意味を考えていく大切さを確認した.
 そして,毎年8月の第三木曜日にチーフ会議の主催で里祭を開催していくことが確認された.
 そして,今年の里祭も昨年に引き続き「やどかりの里と私」をテーマに開催.第一部は,土橋敏孝新理事長が「やどかりの里と私」について語った.第2部はビアパーティー.

 土橋理事長は,自分の生い立ち,福祉を学ぼうと志したこと,30年間勤めた埼玉 県社会福祉協議会での活動など1時間ほど語った.そして,谷中輝雄会長との大学時代の出会い,今までやどかりの里とどう関わってきたのかなど話された.土橋理事長が会員を目の前にして語るのは総会以降初めてで,会場には80名以上の会員が集まった.家族の参加も多かった.

 土橋理事長の話は,戦争当時の思い出から始まり,病弱だった母を亡くし,家事を引き受け,忙しく過ごしてきた中学までの暮らし.高校入学を機に祖父母に引取られ,一変した生活環境の中で,自分の人生の選択について考えてきたこと.その中で福祉を学び,埼玉 県社会福祉協議会の仕事を選択したのだと振り返った.土橋理事長が福祉を志すまでの貴重な体験を聞く時間になった.学生時代の後輩の精神病の発病により,精神病院の現状を目の当たりにしたこと,社会福祉協議会で働いていたころ,後ろ側から黙ってやどかりの里を支えていたことなど,土橋理事長の誠実さを感じるエピソードも語られた.

 印象に残るのは,あるメンバーから老後の暮らしの場を何とかしてほしいと意見が出たとき,「一緒に考え,一緒に創っていきましょう」と力強く話されたことである.
 やどかりの里が社団法人として運営されている意味,一人一人が思いや希望を持ち,誰かが何かをしてくれるのではなく,それをともに創り合っていく,そんな時代になったことを感じる里祭であった.


機関紙「やどかり」10月号
(2002.10.15発行)



精神保健福祉の市町村時代を実りあるものへ
グループホームの制度変更

 この秋グループホームに関する1冊の本がやどかり出版から出版された.やどかりブックレット・障害者からのメッセージ・9「グループホーム 豊かな暮らし」である.現在やどかりの里では11か所のグループホームを運営しており,うち10か所が補助金対象事業である.そのグループホームの実際とそこで生活している4人のメンバーの暮らしぶりを一冊の本にまとめたものである.

 やどかりの里のグループホームの特徴は,民間のアパートと契約し,メンバーがそれぞれ1人暮らしを営む形態を取っていることである.グループホームの定員は概ね4〜5名で,戸数の多いアパートではやどかりの里のメンバーでない方も入居している.一般 の1人暮らしと変わらないご近所付き合いもあり,街の中でそれぞれのペースで暮らしている.個人の自由な暮らしを尊重しつつ,お互いに助け合い支え合って生活するのがグループホームでの暮らしである.1人暮らしではあるが同じアパートに仲間がいることの安心感は大きい.必要に応じて職員がサポートするが,メンバー同士の支え合いが土台にあってやどかりの里のグループホームは成り立っている.豊かな暮らしもそこから生み出される.
 その豊かな暮らしを下支えしているのが平成5年に精神保健福祉法に盛り込まれた精神障害者地域生活援助事業であり,グループホームの設置を保障しているのである.

 今年度4月から,これまで県が担ってきた精神保健福祉の業務が市町村に一部移管となった.市町村が新たに実施することになった精神障害者居宅生活支援事業の1つとしてグループホームも位 置づけられたのである.
 そもそも平成11年に改正された精神保健福祉法により,今年度からは住民のより身近な自治体である市町村を基盤とした精神保健福祉サービスが展開されていくことになった.より生活の場に密着した自治体(市町村)が精神保健福祉業務を担うことにより,精神障害者も1人の住民として精神保健福祉サービスが受けられる時代がきたのである.

 しかし実際には,今年度から市町村への業務移管だけではなく,それに伴ってグループホームの補助金の算定方法も変更された.具体的には定員割れが起きると補助金が減額される.一方,定員が増えても補助金の上限は決まっており補助額は変わらない.この制度で従来のように入居者の転居の自由を保障すると,補助金額が変動し安定して世話人を確保できなくなる恐れが生じる.この事態にやどかりの里ではチーフ会議を中心に対応を検討している.また,関係団体とも連携しながら問題を共有していく必要がある.

 グループホームでの豊かな暮らしを守るためにも,法改正の主旨が実現化するためにも,法改正後の自治体の動向が実際の活動にどのような影響を及ぼすのか,慎重に見極めていかなくてはならない.精神保健福祉の市町村時代が名実ともに実現することを強く願う.

 


機関紙「やどかり」11月号
(2002.11.15発行)



さいたま市の地域精神保健福祉の充実に向けて

 やどかりの里は,1990年に社会復帰施設を建設し,その後地域生活支援態勢を確立する中で,精神病院に長期入院している方々が退院して地域での暮らしを可能にするための支援を行ってきた.
 さらに,来年度からはこれまでの支援態勢では退院を促進できなかった重篤な人たちが,退院して地域で暮らしていくための取り組みに着手する.そのためには,新たな精神保健福祉サービスやシステムを地域で整えていくことが必要になる.入院中の重篤な人たちの地域生活の実現の取り組みを始めることを通 して,さいたま市内の精神保健福祉の充実を目指していきたいと考えている.

 この秋,職員5名で市内6か所の精神病院を訪問し,ソーシャルワーカーや看護士,医師に,病院の現状と課題,また退院促進のためにどんなサービスが必要なのかについて話を聞かせていただいた.その中で明らかになったことは,重篤な人たちへの暮らしを支えていくには地域の精神保健福祉サービスを整備していくことが必要で,既存のサービスだけでは不十分で,新たなサービスの創出や生活支援が必要ということである.そして,そのためには医療機関,社会復帰施設,自治体など関係機関の連携が欠かせないということであった.

 現在,厚生労働省によると約34万人の精神病院の入院患者のうち,何らかの条件が整えば退院可能とされる社会的入院者数は7万1600人,精神病院の平均在院日数371.5日と発表されている.この数字からも,入院の長期化は解消されていない.国はこうした実態を踏まえ,今後10年間で約7万人の社会的入院者を解消するため,社会復帰を目指すために受け皿となる必要な施設を整備していくこととしている.
 精神病院の社会的入院の解消は精神保健福祉全体の課題でもある.1987年の精神保健法改正に始まり,これまで数回の法律改正が行われ精神障害者の人権保障,地域における精神保健福祉施策,また地域精神医療の充実が図られてきたが,精神病院における社会的入院者数はこの10年間ほとんど減少していない.入院している人たちのおよそ43%が,入院期間5年以上である.

 精神障害者が真に1人の人間として地域で暮らしていくためには,様々な取り組みを地道に継続して行っていかなければならない.  来年度からの新たな取り組みはその中の1つである.精神病院に入院している人たちの実態を把握し,精神保健福祉に携わる関係者が課題を共有して,精神障害者が地域で安心して暮らしていけるさいたま市にしていくための取り組みを続けていくことが大切だろう.やどかりの里の既存の資源とサービスを柔軟に活用し,重篤な人たちへの地域生活実現の課題に関係機関とともに取り組んでいきたいと考えている.


機関紙「やどかり」12月号
(2002.12.15発行)



さいたま市の保健や福祉の計画にパブリックコメントを

12月10日〜1月10日まで

 さいたま市では,保健福祉総合計画のもとに5つの計画づくりが進んでいる.障害者計画,児童育 成計画,高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画,母子保健計画,ヘルスプラン21である.2003年 4月からの政令指定都市への移行の準備でもある.この6つの計画のうち,保健福祉総合計画と障害 者計画に常務理事の増田が委員として参加し,数名の職員とメンバーが傍聴している.新しく生まれ たさいたま市の保健や福祉の施策がどのように考えられていくのか,精神障害者の施策にとどまらず さいたま市がどんな街になっていくのか,考えていかなくてはならないという問題意識が生まれてい る.

 やどかりの里では,計画の進行に沿って,やどかり研究所の運営委員会や第三木曜会(やどかりの 里の月に1回の全体集会)で進行状況を報告し,どのような意見を提案していったらいいのか検討してきた.研究所の運営委員会には,各地の障害者計画や健康日本21の地方計画に関わっている人も参 加しているため,かなり密度の濃い討論が行われた.

 12月3日の保健福祉総合計画審議会で前述の6つの計画の中間素案が出揃った.そして,12月10 日〜1月10日までパブリックコメントが募集される.6つの計画はさいたま市のホームページで公開 されるほか,行政センターの情報コーナーで閲覧できる.5つの計画と総合計画がどう整合性を図る のか,保健と福祉の連携がどのように進むのか,これは注意深く見守らなくてはならない.

 やどかりの里の中での討論をもとに意見として提案したものの,それらの意見が計画に反映された とはいえないのが現状である.それでも,これらの計画づくりに強い関心を持ち,これまでの経験を 生かして計画へ提案していくことが,新しく生まれたさいたま市の今後を考える第一歩になったとい えよう.これらの計画を自分なりに読み解き,意見を持つこと,そしてその意見をパブリックコメン トとして提案していくことが,これから可能なさいたま市の施策に関与できる1つの方法ではある. この機会をどのように生かしていくのか,市民の力量が問われるのであろう.

 3つの市が合併し,人口100万人を超える大規模自治体となり,まもなく政令指定都市 となる.区割りも区名も発表になった.自治体が大きくなることの大変さが計画づくりを通 して見え てくる.でも,やどかりの里はこの地で活動を誕生させ,この地域の住民とともに活動を進めてきた. 「さいたま市」に暮らしてよかったと,胸をはって誇れるような街にしていくことは,やどかりの里 にとっても大きな責務なのではないか.やどかりの里の会員がこれらの計画づくりに関心を寄せ,自 分なりの意見を寄せていくこと,まずはそこから始めたい.

 


機関紙「やどかり」1月号
(2003.01.15発行)



謹賀新年

 昨年は、やどかりの里にとっては、新しい出発点となった年です。
 昭和45年にやどかりの里が創られてから32年間、中心になって取り組んでこられた谷中理事長が退任され、新しい指導態勢のもとで新たな旅立ちをすることとなりました。
 目指すものは、地域の中で、地域の住民と共に、心の病に苦しむ仲間の生活の場や働く場、憩いの場等を用意し、地域精神保健福祉の充実を図ることです。
 やどかりの里が全国の関係者の先進的役割を果たしつづけることを願いつつ、これからは、地元さいたま市にあって、さいたま市の精神保健福祉の充実に寄与できることを願って、精神病院に長期入院されている方々の地域での暮らしを可能にする取り組みに多くのエネルギーを注ぐつもりでおります。
 今年も皆様方と力を合せよい年を迎えたいと願っておりますので、ご協力ご支援を賜りますことをお願い申し上げます。
 終わりに、皆様方の益々のご清祥とご多幸をお祈り申し上げます。
 
理事長 土橋敏孝


機関紙「やどかり」2月号
(2003.02.15発行)



夢を語りつぐ
谷中輝雄会長の厚生労働大臣表彰を記念して

 さる1月11日に埼玉 県障害者交流センターにおいて「谷中輝雄会長厚生労働大臣表彰記念・夢を語りつぐ会」が開催された.当日は会員をはじめ全国各地から200人近くの参加があり,盛大に行われた.
 やどかりの里では今年度理事長が交代した.長年理事長として活動を引っ張ってきた谷中輝雄が会長に,副理事長として活動を支えてきた土橋敏孝が新しく理事長となった.今回厚生労働大臣表彰のお祝いと同時に,理事長交代という節目を経て,やどかりの里がどういう方向性で今後活動を展開しようとしているかお伝えする機会にしようと,この「夢を語りつぐ会」の実行委員会を組織し準備を進めてきた.

 当日は谷中会長の記念講演の後,スライドショーでやどかりの里の30年を振り返り,最近の取り組みやそこから見えてきた課題を発表した.やどかりの里創設当時から,その時々にかかわりを持った人が順に語っていく中で,夢や思いがどのように引き継がれて,現在に至っているか確認する機会となった.
 谷中会長は,やどかりの里を誕生させ,精神障害を体験した人たちと,ともに生きる社会を創るために,大きな夢を抱いて歩んできた.その熱い思いに共感する人々が,やどかりの里に集まり,小さな歩みを重ねてきた.
 現在では,やどかりの里には200名のメンバーと50名余りの職員が活動し,さいたま市内に点在した活動拠点では,多くの協力者の方々が熱心に応援してくださっている.谷中会長が精神病院のソーシャルワーカーとして,大宮で活動を始めた頃には想像できなかったような活動の広がりが生まれている.

 しかし,一方では30年前も今も変わらず精神病院の中で人生を終えざるを得ない人たちがたくさんいる.活動を積み重ねてきたとはいえ,依然厳しい現実もあることを忘れてはならない.やどかりの里の課題も数多い.
 精神保健福祉を取り囲む社会福祉の全体状況も,支援費制度の導入や国の新障害者プランの策定,と激動の時代の只中にある.変化の激しい時代だからこそ,活動の原点の夢や希望を改めて確認する意義は大きい.地域の中に,小さいけれど暖かな居場所を作ることから始まった活動の原点を忘れず,激しい変化に活動の方向性を見失うことなく,歩み続けていくことが必要なのであろう.

 会の後半のティーパーティーでは,各地から駆けつけてくださった方々から,温かい励ましのお言葉を数多くいただいた.改めて,やどかりの里が多くの人たちの支えや応援でここまで活動を続けられたことを感じられる時間となった.今後も先輩たちの姿から学びつつ,多くの方々と手を携え,夢や希望を忘れず進んでいきたいものである.

 和やかさと温かさのうちに会は終わった.やどかりの里が新たな態勢でスタートして1年,活動の背骨となる夢や思いの共有が出来た1日だったのではないだろうか.

 

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32年間の時を越え未来へ夢を続ける

 「夢を語りつぐ会」の受付開始前から,会場の障害者交流センターのホール前はたくさんの人で賑わっていた.古くからのやどかりの里の支援者,谷中会長に薫陶を受け各地で精神保健福祉の活動を展開している人々,地元埼玉 県やさいたま市の行政の担当者,精神のボランティアグループの方々や社会福祉協議会をはじめとする県内の福祉や医療を担う団体等,沖縄県から山形県まで全国から約@KN200@KN名の方の参加の申し込みがあった.あちこちで挨拶の花が咲き,谷中会長との久しぶりの邂合に懐かしさをにじませる人々の姿があった.

  開会の挨拶は実行委員会を代表し,香野英勇理事が「情けは人のためならず」を例えに,谷中会長に対する感謝の言葉を述べた.
  そして,谷中会長の「これからの精神保健福祉の方向性」と題した記念講演が始まった.谷中会長はさいたまの地で描いてきた夢,その夢を徐々に実現していった過程,そして今後は教育の場に身を置き,後進の指導を通 してこれからも夢を実現していくという抱負を述べた.また,国は障害者プランとして72,000人を病院から地域に出すという数値目標を掲げた.これは我々の要求をもとに,市町村が精神保健福祉に地方交付税を今後どう使うかという問題であるが,高齢化を考えると10年間では長すぎる.病院の表玄関から出てきて,地域で生活するシステムを作ることは,後進にお願いしたい.またその長期入院の方々を地域に迎えたときが,自分の仕事の終わりであるとし,参加者の深い共感を得た.「私はやどかりの里は引退するが,さようならではない」と締めくくった.

 引き続きスライドショーが始まった.「やどかりの里の過去・現在・未来」というテーマでやどかりの里の32年間の活動をスライドにまとめ,その時々の活動の中心となった人々がその時の思いについて語った.30歳の青年谷中輝雄が市内の病院で出会った1人の患者さんと1人の家族.その2人に背中を押され始めたやどかりの里.国家公務員の職を捨てやどかりに身を投じた職員第1号の荒田さんの語るやどかりの里の誕生の頃.存続の危機を何度か迎えながらもごく当たり前の生活を目指した時期,その後社会復帰施設が建ち,活動が広がっていったことがスライドで現された.この法律的な枠組みの中で活動ができるまで既に20年の日々が費やされて来たことを思うと,感慨深いものがあった.また国の施策に先駆けて始まった生活支援センターと生活支援の態勢つくりは,やどかりの里が誇れるものであろう.一方で働く場としての作業所作りの過程が,また地域に貢献できる存在として「食事サービスセンター エンジュ」の活動と福祉工場の活動が披露された.そしてこの数年組織が拡大したことによる組織の危機,活動の危機に最近のやどかりの里はどう対処してきたのか,日々の実践の一方で,やどかりの里が大切にしている研究,研修の場が果 たした役割について発言があった.人づくりセミナーや地域精神保健福祉研究会,状態調査,カナダの当事者活動の学習会などの学びが,現在のやどかりの里が大切にしているメンバーと職員の「協動」に根付き,活動に確実に生きているのだ.そしてやどかりの里の価値を普遍化することの意味,やどかりの里の原点である「茶の間」が意味することを堀澄清さんが話した.残念だったのは,その昔青年谷中輝雄の背中を押し,その後「茶の間」を長年守ってきた志村澄子さんが,闘病中でこの場にいることが叶わなかったことだ.

 スライドショーの最後にNHKプロジェクトXでおなじみの,中島みゆきの「ヘッドライト,テールライト」が流れた.どん底を経験しながらも前向きに生きようとするメンバーの姿勢に,励まされ生き直したやどかりの里の職員達がいる.今私たちは人と人とのつながりの大切さを感じ,競争社会から脱却し,1人1人が大切にされる社会の実現を目指している.これからの精神保健福祉の未来を想像すると,やどかりの里だけでなく,今日出席してくださった多くの方々とまさにプロジェクトXのチームを組み,進んでいくのであろうと感じた瞬間であった.

 ここでいったん照明が落とされ,東京フラメンコギター合奏団が記念演奏を行った.おなじみのギターの名曲と曽我部康子さんのフラメンコの披露があった.
 第2部は山崎光夫理事の挨拶でティーパーティが始まった.多くの方がそのまま残ってくださり,夢を一言ということで,会場のあちこちから挨拶をいただいた.「自分は夢なし人間なんですよ」と断る方もいらっしゃったが,やどかりの里の活動に少なからず刺激を受けて下さっていることがわかり,実行委員の一員としてはほっとした瞬間であった.「これからも職員とメンバーとが一緒に創っていくやどかりの里でありたい」と土橋敏孝理事長が閉会の挨拶をし,「夢を語りつぐ会」は盛況の内に幕を閉じた.
 さて,場所を移しての2次会はやどかりの里の中川の社団法人本館建物.全国から大吟醸の銘酒や名産品が届き,本館2階の事務所は大混雑.その昔,谷中会長に教えを請うため全国の方が訪れ,研修生や職員が熱い思いを語っていたというやどかりの里は,かくあったであろうと思うような状況であった.一時代を担った旧職員から今年入職した職員まで,そして今も谷中会長を慕う各地の方々で夜遅くまで賑わった.
(浅見 典子)

全国的な精神保健福祉活動の展開を目指して
谷中 輝雄(やどかりの里会長)

 去る1月11日,「夢を語りつぐ会−厚生労働大臣賞受賞を記念して」を開催していただき,多くの方々からねぎらい,なぐさめ,励ましの言葉をいただき,心より感謝申し上げます.
 人によっては別れの挨拶までいただき,とまどったりもいたしました.終えたあと,遠方からの参加者はお祝いの会というよりお別 れ会のような印象をもったと語られ,何か感じることがあったのかと思い,ここにお祝いへの感謝と同時に私の気持ちを会員の皆様にお伝えすることが,大切と思い筆をとりました.

 当日参会した方にはお話しいたしましたが,私が30年間で一応やどかりの里の形をつくってきて,これ以上理事長を続けることは,若い人たちの独創的な考えを妨げることになることを恐れていたこと,つねに世代の交代の時機が問題視されていたこともあって,よい機会であると判断した旨のことを述べました.

 考えてみれば,30年間で2度倒れて入院生活を送りました.今様でいうとバーンアウト(燃えつき症候)です.2度目に仙台で倒れ,救急車で病院に運ばれた時はもうこれで終わりだと思いました.そして,さまざまな人たちに後を頼みますとお願いをいたしました.誰1人として,承知してくれませんでした.再び私が走るしかありませんでした.でも,一度死んだ人生だから,これからはやどかりの里を支えて下さった方々へのお返しをすることだと考えました.まずは国の施策に精神障害者の福祉とノーマライゼーションの具現化を推進することであると考え,やどかりの里のことは職員に任せて全国精神障害者社会復帰施設協会の会長として,さまざまな委員会に参画することになりました.

 昨年12月24日に新しい障害者基本計画と当面5年間の取り組みが発表されました.10年間で,72,000人の方々を病院から地域に出すのだという数字が明記され,具体的な施策も十分とは申せませんが国の方針が打ち出されました.これで私の仕事は終えたと思いました.
 そこで,長いこと願っていたことを始めたいと思い,その想いの一端をみなさまにお伝えいたしました.それは,人材の育成(北海医療大学大学院にて)と精神保健福祉に携われる方への燃えつきを防ぐ仕事(北海道でのリフレッシュセミナー・精神保健福祉交流協会)であります.

 やどかりの里を見放したということではありません.会長(これは名誉職ですが)としてやどかりの里を見守り,必要があれば役割もとりますが,やどかりの里は職員とメンバーの協同の作業を進めることが重要だと考えます.私の夢はメンバーが職員と対等となり,理事長にメンバーの代表がなってくれることであります.その時に私が元気でいれば,助っ人になるつもりでおります.
 しかし,今は全国的に精神保健福祉の活動を展開させねばなりません.残された数年,私は最後の仕事に向かって歩き出しました.どうぞ,今後ともやどかりの里を支え,共に新しいやどかりの里を形成していただきたいと思っております.
 また,私の志す第2の仕事にもご参加下されば,お会いする機会もあろうかと思います.私の労をねぎらってくださった皆様に紙面 を通して心よりの感謝を申し上げる次第です.ありがとうございました.


機関紙「やどかり」3月号
(2003.03.15発行)



やどかりの里がこの1年で手にしたもの
5つの課題を基盤に取り組んだ今年度の活動の見直し

 2003年2月6日,やどかりの里の1年を振り返り,総括する時間を設けた.数年前までは,各部署の責任者が集まり,活動の総括をしてきたが,ここ数年はやどかりの里に関わる多くの人とその場を共有し,話し合えるものとしてきている.今年もメンバー,職員29名が参加し,5時間近くに渡る話し合いとなった.

 まず前半は,この1年の社会の動きの中で,やどかりの里の活動がどのように取り組まれてきたのかを,参加者それぞれの目を通 して振り返り,情報や気づきを共有する時間となった.そこで共通して出てきた事は,教育基本法の改正問題や有事法制の問題,また私たちにより身近なところでは支援費制度の導入や,心神喪失者等処遇医療観察法案など,社会全体が思わしくない方向に向っていることが見えながらも,そこにきちんと発言できる力を持ち合わせていない自分たちの弱さであった.

 また,国・県・市の動きについて,どのように情報を集め,どのように受け止めるのか,その上で単なる要求運動ではなく,きちんと要望できる力をつけていく必要があるのだということを再認識することで,我々の学習課題がより明確になった.そして,これを県内,市内の関係機関とのネットワークづくりの中で取り組んでいくことの必要性についても再認識された.

  後半では,やどかりの里が今年度どのようなネットワークに関わり,連携を築いてきたのかを話し合った.今年度ネットワークづくりに積極的に取り組んできたことは,県内,市内と多岐に渡る様々な会議等への出席が多くなってきていることにも表れている.障害者計画策定に関わる学習会にはメンバー,職員が参加し,障害種別 を超えた人たちと学びの場を共有し,より広い視野で考える機会ともなった.また障害者施設連絡会をはじめとした関係団体との集まりの中でも,さいたま市としてのまとまりをどのように組織化していくかが今後の課題として明確になってきている.ネットワークづくりは,やどかりの里にとって単なる横のつながりに終わらない意味をもつものとなり,今後の活動の柱であることがより明確になった.まさに「やどかりの里が自己完結型の活動づくりからの脱却」を目指してきた一つの成果 としてみることができる.

 最後に,2回に渡る状態調査から導き出された「やどかりの里の5つの課題」にどのように取り組んできたかを,一つひとつ見直す作業を行った.そして,この5つの課題が活動の基盤にしっかりと位 置づいていることを確認した.  この振り返りを踏まえると,5つの課題をこれからのやどかりの里の活動の指標・指針にしながら,メンバーと職員の協働で進めていく活動づくりをさらに発展させていくことが,次なる活動の柱となるであろう.

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