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<1面記事>
コンシューマーのイニシアティブの実際に触れて
カナダトロントでの刺激的な体験
カナダのオンタリオ州で展開されているコンシューマーのイニシアティブについて,昨年から学習を続けてきた.そして,ファイザー製薬からの助成金を受け,9月11日から23日まで,実際にオンタリオ州トロントを訪れ,実際の活動に触れ,その考え方を聞く機会を持つことができた.
しかし,実際に成田空港を出発し,オンタリオ州に到着したのは,9月16日の未明であった.これはアメリカで起こったテロリストによるハイジャックのためで,事件が起こった時刻に飛行機に乗り合わせていた私たちは,ニューヨークに到着する予定がアラスカ州アンカレッジに緊急着陸した.この間のことは次ページからの報告に譲るが,アンカレッジで過ごした数日,そしてトロントで過ごした数日,ともにさまざまなことを考えさせられる2週間であった.
さて,この研修旅行はカナダのコンシューマーのイニシアティブを学びつつ,日本の精神保健福祉活動について考える学習グループが基盤になっている.そのグループの中から3人のメンバーと7人の職員が参加した.(やどかり出版顧問の西村氏の夫人も同行)そして,トロントでのさまざまな訪問や会合を,現地のアディクションとメンタルヘルスセンターのジョン=トレーナー氏と交渉しながらコーディネートをして下さったのが,木村真理子(関西学院大学)さんだった.この旅行にも同行し,私たちの研修を助けていただいた.全員で12名のグループであった.3人のメンバーは,海外での研修を受けることが,自分自身の体調や将来にとってどんな意味があるのか慎重に考え,参加を決定した.職員は,やどかりの里の方向性,さいたま市の中でやどかりの里がどのような役割を取っていくのか,あるいは日本の精神保健福祉活動のビジョンを描きたいという思いがあった.
トロントに滞在した5日間は,大変刺激的な経験の連続であった.オンタリオ州の精神保健政策にとっても,コンシューマーのイニシアティブを基盤にした政策は革命であったという.そして,コンシューマーや専門職の意識を変え,実際に事業化が進められることで,そのことの有効性が確かめられてきた.今ではさまざまな組織や活動の理事会にコンシューマーが参加し,コンシューマーが運営するビジネスが盛んになってきている.10年の歳月がかかっている.日本の長期入院者の多い現状,精神障害者であるということで,さまざまな機会が失われていく現実.その現実に対しての憤りを感じた5日間でもあった.私たちが気づいたことを,次なるアクションにどうつなげていくのか,これからの課題は大きい
トロントでの研修を終えて
コンシューマーの力を信じ,さまざまな機会を作り出すこと
9月22日早朝,トロントでの研修を終えた私たち11人は,ノースウエストで帰国する木村さんと別
れ,トロントからアトランタに向かい,アトランタでデルタ55便成田行きに乗り込み,いまその機上にいる.
この2週間を振り返り,ご報告したい.目的はもちろんトロントでの学習であったが,トロントに行き着くまでの経験も,さまざまな意味のある経験であった.
想像もしなかったことでアンカレッジに降り立った時,私たちはとても大きな不安を抱えていた.アンカレッジの空港のオフィスに映し出されていた航空機がツインタワーに飛び込み,ビルもろとも炎上するシーンは,とても現実のこととは思えなかった.先行きの見えない不安は大きかった.アメリカとカナダの飛行場が封鎖され,一切の航空機がストップしていた.昼食を求めて,アンカレッジの街に出ると,頭の上を軍用機が飛んでいった.戦争が始まるのだろうかと気持ちが重たくなった.
結局アンカレッジには2泊したのだが,通信がままならないこと,十分な情報のないこと,そのためにどういう判断をしたらいいのか,大変しんどい2日間を過ごすことになった.グループメンバーのほとんどが,できればここから引き返して,日本に帰りたいという思いを抱いていた.しかし,日本に帰国する便のチケットを手に入れるには,アンカレッジでさらにとどまらなくてはならないこと.やっとのことで連絡が取れた木村さんとの話し合いで,ジョン=トレーナーさんが到着が遅くなる分,研修日程を延ばすことを提案された.このことにとても勇気づけられ,後ろに戻るよりも,予定を前に進めることを選んだ.3日目の朝ロサンジェルス行きの飛行機が飛ぶことになり,ロサンジェルスに向かった.しかし,ロサンジェルスから先の見通
しはなく,不安は強かった.この日どこに泊まれるのか,トロントには安全に行かれるのか,私たちは大変高いストレス状態にあった.アンカレッジのホテルを朝7時前に出発し,何とかロサンジェルスのホテルにたどり着いたのは,22時を回っていた.デルタのカウンターで長時間並び,やっとのことで手に入れたチケットは2日後のシンシナティ乗換えのトロント行きだった.ロサンジェルスのホテルで,私たちがグループとして,どう行動していくのかの話し合いを持った.誰かが決めるのではなく,参加者の合意に基づく決定であるべきだという問題意識からだ.この話し合いは大変重要であった.危機に遭遇し,この危機にどう立ち向かい,対処していこうとするのか,参加者の共通
認識にする意味があった.
そして,9月16日未明にトロントに到着した.やっとほっと人心地がついた.木村さんも何とかバンクーバーからトロントに到着し,やっと会うことができた.ジョン=トレーナーさんがホテルに出向いてくれて,5日間の研修の打ち合わせを行った.
トロントでの5日間の日程は以下の通りである.見学先はいずれも非営利の民間組織である.
9月17日(月) 午前 ダンダス・オーサーパートナーシップというハウジングの見学.4つの機関が連携して行っている住居の活動.
午後 ジョン=トレーナーさんの働くアディクションとメンタルヘルスセンターを訪れ,ジョンさんからオンタリオ州の精神保健政策の大枠の説明を受ける.2時からは,木村さんと香野さん,私が日本の精神保健活動の現状ややどかりの里の実践について発表した.50人近くの人が熱心に聞いてくださり,時間いっぱいまで質問が続いた.
9月18日(火) 午前 リジェネレーションハウスの訪問.やはりハウジングの活動で,1977年に精神科の病院が閉鎖になったことで始まった活動で歴史がある.重症の患者さんたちが管理された生活から,自立的な暮らしに移っていくプロセスを伺った.前日の住居の活動でもそうだが,こうした活動の運営を決定する理事会には,必ずコンシューマーが複数参加している.
午後 CSDI(コンシューマー・サバイバー・デベロップメント・イニシアティブ)の事務所を訪問した.ここではコンシューマーであるマニー=シェパードさんが説明をしてくださった.コンシューマーのイニシアティブがどのように発展してきたのか伺った.
9月19日(水) 午前 メトロCMHAを訪問.CMHA(カナディアン・メンタルヘルス・アソシエーション)のトロント市の支部である.ここでは直接的サービスとメンタルヘルスに関するヘルスプロモーションが行われている.
午後 オークセンター・ナイアガラを訪問.ここはクラブハウスモデルの1つである.そして,今回唯一の観光でナイアガラの滝に行く.霧の乙女号という観光船に乗り,滝の目前まで行く.滝のしぶきでびしょ濡れになるが,楽しい時間をすごした.
9月20日(木) 午前 CMHAのナショナルオフィス.ここで日本にも来て下さったボニー=ペイプさんと再会.ここで展開されている雇用・早期発見,早期治療・高等教育などの事業について,それぞれの担当者が説明してくれた.
午後 サウンドタイムズという活動を訪問.活動内容はクラブハウスモデルに似ている.職員自身もホームレスを経験したことのあるコンシューマーであり,普通
のサービスを受けられない人,利用したい人は誰でも利用でき,過去は問わない.
夜 やどかりの里の香野英勇さん,辰村泰治さん,宗野政美さんとCSDIで働くコンシューマー3人が交流を目的とした夕食会を開いた.
9月21日(金) 午前 4日間の研修を振り返っての12人での話し合いを行った.午後の最後の話し合いで何を明らかにしていきたいのかということを確認する意味もあった.
午後 アディクションとメンタルヘルスセンターで,ジョン=トレーナーさんのコーディーネートによる話し合い.政府のシニアスタッフ,雇用のプログラムの担当者,センターの職員など,10数人が参加してくださり,私たちの質問に答えてくださった.
限られた紙面では,私たちの受けた刺激をお伝えできない.これから何回かにわたって,参加者の感想を伝えたい.この5日間,トロントでの活動を鏡にして,もう一度活動を振り返ることになった.そして,コンシューマーの力を信じ,さまざまな機会を作り出していくことの重要性を感じた.カナダも財政は厳しい.政策にどれだけ住民の声を反映させていくのか.「人間中心」の政策をどう展開していくのか.これは住民自身の力も問われるのだ.アトランタから13時間に及ぶフライト,まもなく成田である.帰国後,振り返りの機会を持ち,この経験をどう報告するかを検討する.私たちの経験を多くの人と共有し,これからの日本の精神保健活動が人間中心に展開されていくために生かしていきたい.
(増田 一世)
<第3木曜会報告>
学生実習の見直しと見通し
9月20日(木)の第三木曜会の議題は,1)日本健康福祉政策学会の経過報告,2)学生実習について,であった.
まずは,やどかりの里が中心となって今年12月1日,2日に埼玉県障害者交流センターで開催される第5回日本健康福祉政策学会学術大会(以後学会)の進捗状況について,堤および実行委員が次のように報告した.「今年で第5回を迎える学会は,より地域住民や専門家との交流・対話・学習を目指し,『いのち・くらし・こころを育む街』を感じられるものを現在主に実行委員会で企画中である.プログラムの中にはやどかりの里の歴史を辿り,自分たちの活動をアピールできるような企画もある.やどかりの里内外を含む多くの人と協力しながら,ひとつの学会を成功させたい.また具体的なことについては,追って報告する」
次に2)について話し合った.精神保健福祉士の資格化が成されてから今年で3年が経つ.近年はやどかりの里でも多くの資格取得を目的とする実習者を受け入れている.日本の精神保健福祉活動の充実のため,できるだけ協力し学びの機会を提供したいとの思いがある.しかし,受け入れる現場で資格実習についてどう感じているのかを聴く機会がこれまでなかった.ここではまず実習に協力しているメンバー,スタッフの率直な意見や思いが語られた.
実習生に求める共通のことは,「積極的に学ぶ姿勢」であった.「実習中に寝ている人がいるが,そういう時は帰していいのか」という職員からの声には,大学で実習指導をしている坂本さんから「不快に思ったことは本人に率直に伝えて欲しい」と伝えられた.
メンバーからの「ただ作業等をこなすのではなく,直接自分たちに質問しなければ実習は成功しない」という声に対し,「緊張して積極的になれない人もいるよ」「実習生も最初から色々なことは判らない.時間をかけて学ぶもの」と言うメンバーもいた.限られた時間の中の学生との出会いを大切に考え,より良い実践者になって欲しいと期待するメンバーがいることが明らかになった.
実際にやどかりの里で実習及び資格実習を行った職員からは,「メンバーの人生に触れる『人生塾』の様だった」「とても緊張した」「受け入れてもらえた体験だった」「実習を通
して自分の感覚とフィットすると感じて今ここで働くことができている」といった様々な実習体験が語られた.
そして最後に今後の資格実習のあり方に話が及び,現在職員が行っている実習の企画・振り返り等を今後メンバーと共に行う方向性が話し合われた.具体的に企画する実行委員会が必要だが,メンバーがパートナーとして1日を過ごすプログラムが例として挙げられた.メンバーからは自分たちと過ごしての感想を聞いてみたいこと,リラックスして自分たちと関わることができる為の事前のプログラムが何か組めないか,といった具体的な意見が出た.また,色んなやどかりの里のイベント等に参加し,そこで感じたことを表現することが大切,という実習生に厳しくも期待を込めた意見も出された.
今回の話し合いで,学生にとってやどかりの里での実習が今後につながる良い体験となるよう,協力していくことが確認された.
次回は10月18日です.
(堤 若菜)
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